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text:yomeiuji:uji015 [2014/09/27 17:19] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji015 [2017/12/20 23:55] (現在) – [第15話(巻1・第15話)大童子、鮭ぬすみたる事] Satoshi Nakagawa
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 **大童子、鮭ぬすみたる事** **大童子、鮭ぬすみたる事**
  
-これも今は昔、越後国より鮭を馬におほせて、廿駄斗粟田口より京へをひ入けり。それに粟田口の鍛冶が居る程に、いただきはげたる大童子の、まみしぐれて、ものむつかしう、うららかにもみえぬが、此鮭の馬の中に走入にけり。+===== 校訂本文 =====
  
-みちはせばくて、馬なにかとひしめきける間、此大童子、走そひて、さけを二引ぬきてふとろへひきいてけり。さてげなくて走先立けるをこの鮭にぐしたる男みけり。走先立て童のたてくびを取て引とどめていふやう「わせんじゃうはいかで此鮭をぬすむぞ」と、いひけれ、大童子「さる事なし。なにをせうこにてうはの給ふぞ。わぬしが取て此大童子におほする也」といふ。かくひしめく程にのぼくだるもの市をなして行もやらで、見あり。+これも今は昔越後国より、鮭を馬負ほせて、二十駄ばか粟田口よ京へ負入りけり。
  
-さるに、この鮭のかうちう「まさしく、わせんじゃうとりてふところへ引入つ」とふ。大童子は「わぬしこそぬすみつれ」とふ時に、鮭に付たる男「せんずる所、も人もふところをん」とふ。大童子「さまでやはあるべき」など男袴をぎて、ふところをひろげて「くわ給へ」とひてひしひしとすさて、男大童子につかみきて「わせんじゃう、はや物ぬぎ給へ」と、いへば童「さまあしとよ。さまであるべきか」とふを、この男、ただがせにがせて、まへを引あたるに腰にさけを二腹にそへてさしたり+それに、粟田口の鍛冶が居たるほどに、頂(いただ)き禿げたる大童子の、まみしぐれて、ものむつかしう、うららかにも見えぬが、この鮭の馬の中に走り入りにけり。 
 + 
 +道は狭(せば)くて、馬なにかとひしめきける間、この大童子、走り添ひて、鮭を二つ、引き抜きて、ふところへ引き入れてけり。 
 + 
 +て、さりげなくて走り先立ちけを、この鮭具したる男、見てけり。走り先き立ちて、童のたて首を取りて、引きとどめて言ふやう「わ先生(せんじやう)は、いかで、この鮭を盗むぞ」と言ひければ、大童子、「さることなし。何を証拠(せうこ)にて、かうはたまふぞ。わぬしが取りて、この大童子におほするなり」と言ふ。かくひしめくほどに、上り下る者、市をなして、行きもやらで見あひたり。 
 + 
 +さるほどに、この鮭の綱丁(かうち)、「まさしく、わ先生、取りてふところへ引つ」とふ。大童子はまた、「わぬしこそ、盗みつれ」とふ時に、この鮭に付たる男「せんずる所、われも人もふところをん」とふ。大童子「さまでやはあるべき」などほど、この袴をぎて、ふところをげて「くわ、見給へ」とひてひしひしとす。 
 + 
 +さて、この大童子につかみきて「わ先生、はや、もの脱ぎ給へ」とへば様悪(さまあ)しとよ。さまであるべきことか」とふを、この男、ただがせにがせて、前を引き開けたるに、腰に鮭を二つ、腹にそへて差したり。 
 + 
 +男、「くはくは」と言ひて引き出だしたりける時に、この童子うち見て「あはれ、勿体(もつたい)なきぬしかな。こがやうに裸になして、あさらんには、いかなる女御・后なりとも、腰に鮭の一・二尺なきやうはありなんや」と言ひたりければ、そこら立ち止りて見ける者ども、一度に「はっ」と笑ひけるとか。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これも今は昔越後国より鮭を馬におほせて廿駄斗粟田口 
 +  より京へをひ入けりそれに粟田口の鍛冶か居たる程にいたたき 
 +  はけたる大童子のまみしくれてものむつかしううららかにもみえ 
 +  ぬか此鮭の馬の中に走入にけりみちはせはくて馬なにかとひし 
 +  めきける間此大童子走そひてさけを二ぬきてふところへ 
 +  ひきいれてけりさてさりけなくて走先立けるを此鮭に 
 +  くしたる男みてけり走先立て童のたてくひを取て引 
 +  ととめていふやうわせんしやうはいかて此鮭をぬすむそといひ 
 +  けれは大童子さる事なしなにをせうこにてかうはの給ふそわぬし 
 +  か取て此大童子におほする也といふかくひしめく程にのほりくたるもの/16ウy36 
 + 
 +  市をなして行もやらて見ひたりさる程にこの鮭のかうちやう 
 +  まさしくわせんしやうとりてふところへ引入つといふ大童子は又 
 +  わぬしこそぬすみつれといふ時に此鮭に付たる男せんする所 
 +  我も人もふところをみんといふ大童子さまてやはあるへきなと 
 +  いふ程に此男袴をぬきてふところをひろけてくわみ給へと 
 +  いひてひしひしとすさて此男大童子につかみつきてわせんしやう 
 +  はや物ぬき給へといへは童さまあしとよさまてあるへき事 
 +  かといふをこの男たたぬかせにぬかせてまへを引あけたるに 
 +  腰にさけを二腹にそへてさしたり男くはくはといひて引出したりける 
 +  時に此童子うちみてあはれ勿体なきぬしかなこかやうにはたか 
 +  になしてあさらんにはいかなる女御后なりともこしに鮭の一二尺なき 
 +  やうはありなんやといひたりけれはそこら立とまりてみける物とも一度に 
 +  はつとわらひけるとか/17オy37
  
-男「くはくは」といひて引出したりける時に、此童子うちみて「あはれ勿体なきぬしかな。こかやうにはだかになして、あさらんには、いかなる女御后なりともこしに鮭の一二尺なきやうはありなんや」と、いひたりければ、そこら立どまりてみける物ども一度に「はっ」と、わらひけるとか。 
text/yomeiuji/uji015.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:55 by Satoshi Nakagawa