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text:uchigiki:uchigiki09 [2018/05/04 13:24] – 作成 Satoshi Nakagawatext:uchigiki:uchigiki09 [2021/10/18 00:45] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 広き野の、玄(はる)かに遠きを往く。道遠くして、日暮れぬ。留るべき所無ければ、たどるたどる足に任せて往く間、多くの火灯したる物、四・五百人会ひぬ。 広き野の、玄(はる)かに遠きを往く。道遠くして、日暮れぬ。留るべき所無ければ、たどるたどる足に任せて往く間、多くの火灯したる物、四・五百人会ひぬ。
  
-「人に会ひぬ」と思ひて、悦びをなして、寄りて見れば、えもいはず怖しげなる鬼どもの行くなりけり。すきやうもなうて、心経((般若心経))を音をささげて読むほどに、この音を聞きて、鬼、十方に逃げ散り失せにけり。この心経は、三蔵の、天竺より渡る間、道にて伝へ奉る所の経なり。+「人に会ひぬ」と思ひて、悦びをなして、寄りて見れば、えもいはず怖しげなる鬼どもの行くなりけり。すきやうもなうて、心経((般若心経))を音をささげて読むほどに、この音を聞きて、鬼、十方に逃げ散り失せにけり。この心経は、三蔵の、天竺より渡る間、道にて伝へ奉る所の経なり。
  
 この伝へ奉れる様は、山ふところを過ぎ往く間(あひだ)、人、はるかに絶えたる所あり。そこを過ぎ往くほどに、えもいはず嗅(くさ)き香す。やうやう寄りて見れば、草枯れ例ならぬ所あり。鳥獣(とりけだもの)だに見ず。嗅さの耐へがたければ、鼻をふたぎて、あやしさに、あながちに寄りて見れば、一人の死人あり。 この伝へ奉れる様は、山ふところを過ぎ往く間(あひだ)、人、はるかに絶えたる所あり。そこを過ぎ往くほどに、えもいはず嗅(くさ)き香す。やうやう寄りて見れば、草枯れ例ならぬ所あり。鳥獣(とりけだもの)だに見ず。嗅さの耐へがたければ、鼻をふたぎて、あやしさに、あながちに寄りて見れば、一人の死人あり。
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 さて、この経を貴びて、鬼に会ひて読みかけ給ふなりけり。経、験(しるし)あらたなり。 さて、この経を貴びて、鬼に会ひて読みかけ給ふなりけり。経、験(しるし)あらたなり。
  
-かくのごとく、法文((底本「法門」。[[:text:k_konjaku:k_konjaku6-6|『今昔物語集』6-6]]))「法文」により訂正。以下すべて同じ。))どもを学び集めて、唐に帰り給ふ。天竺の王。種々の宝を聖に賜ふ。この中に一の鑊(かなへ)あり。入りたる物どもし尽せず。その鍋なる物食ふ人、すみやかに病癒えぬ。世の伝のおほやけの宝にてありけるを、聖の貴きに、賜ふなりけり。+かくのごとく、法文((底本「法門」。[[:text:k_konjaku:k_konjaku6-6|『今昔物語集』6-6]]「法文」により訂正。以下すべて同じ。))どもを学び集めて、唐に帰り給ふ。天竺の王。種々の宝を聖に賜ふ。この中に一の鑊(かなへ)あり。入りたる物どもし尽せず。その鍋なる物食ふ人、すみやかに病癒えぬ。世の伝のおほやけの宝にてありけるを、聖の貴きに、賜ふなりけり。
  
-聖人、賜はりて、「心毒(([[:text:k_konjaku:k_konjaku6-6|『今昔物語集』6-6]]))では「信度河」」といふ川を渡るに、船、半ばばかりにて、ただ傾(かたぶ)きに傾きて((「傾きに傾きて」は、底本「方フキニ方フテ」。文脈により訂正・補入。))、多くの法文・仏、沈みぬべし。+聖人、賜はりて、「心毒(([[:text:k_konjaku:k_konjaku6-6|『今昔物語集』6-6]]では「信度河」))」といふ川を渡るに、船、半ばばかりにて、ただ傾(かたぶ)きに傾きて((「傾きに傾きて」は、底本「方フキニ方フテ」。文脈により訂正・補入。))、多くの法文・仏、沈みぬべし。
  
 聖、大願を立てて、祈り給へど、その験(しるし)なし。三蔵ののたまはく、「この船のかう傾(かたぶ)く、あるやうあらむ。もし、竜王の用する物あらば、その験を見せ給へ」と祈り給ふほどに、川半より、翁、指し出でて、この鍋を乞ふ。聖、「多くの法文の沈むよりは、この鍋を出ださむ」と思ひて、鍋、入れつ。船、直りて、平らかに渡りぬ。 聖、大願を立てて、祈り給へど、その験(しるし)なし。三蔵ののたまはく、「この船のかう傾(かたぶ)く、あるやうあらむ。もし、竜王の用する物あらば、その験を見せ給へ」と祈り給ふほどに、川半より、翁、指し出でて、この鍋を乞ふ。聖、「多くの法文の沈むよりは、この鍋を出ださむ」と思ひて、鍋、入れつ。船、直りて、平らかに渡りぬ。
行 36: 行 36:
 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
  
-  昔玄奘三蔵伝へき仏法ありとて天竺渡所々仏法広野のの +  昔玄奘三蔵伝ヘキ仏法アリトテ天竺渡所々仏法広野ノノ 
-  玄かに往道とほくしてくれぬるへきなけれはたとるたとるにまかせて往間をほくの火 +  玄カニ往道トホクシテクレヌルヘキナケレハタトルタトルニマカセテ往間ヲホクノ火 
-  ともしたる物四五百人あひぬにあひぬとをなしてよりてはえもいはすけなるとも +  トモシタル物四五百人アヒヌニアヒヌトヲナシテヨリテハエモイハスケナルトモ 
-  のいくなりけりすへきもなうて心経をささけて読程此音鬼十方ににけちり/d21+  ノイクナリケリスヘキモナウテ心経ヲササケテ読程此音鬼十方ニニケチリ/d21
  
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/21 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/21
  
-  うせにけり此心経三蔵天竺より間道にてたてまつる所経也此伝へたてまつれる +  ウセニケリ此心経三蔵天竺ヨリ間道ニテタテマツル所経也此伝ヘタテマツレル 
-  様ふところをすき往間(あひた)人はるかにたえたるありそこをすき往程にえもいはす嗅(くさき)香漸々 +  様フトコロヲスキ往間(アヒタ)人ハルカニタエタルアリソコヲスキ往程ニエモイハス嗅(クサキ)香漸々 
-  よりてれはかれれいならぬあり鳥獣のたにのたへかたけれはをふたきて +  ヨリテレハカレレイナラヌアリ鳥獣ノタニノタヘカタケレハヲフタキテ 
-  あやしさに強(あなかちに)よりてみれは一人死人ありこれかなりけりと見程にみしろくにすたる物 +  アヤシサニ強(アナカチニ)ヨリテミレハ一人死人アリコレカナリケリト見程ニミシロクニスタル物 
-  なりけりとみなしてのありさまを問汝何(なに)人いかなるありてかうはたるそ病人 +  ナリケリトミナシテノアリサマヲ問汝何(ナニ)人イカナルアリテカウハタルソ病人 
-  云我なりしみさうといふかさのかふへよりあなうらにまてたる也嗅さのかくえもいはぬに +  云我ナリシミサウトイフカサノカフヘヨリアナウラニマテタル也嗅サノカクエモイハヌニ 
-  たへて父母もしわひてかくふかきててにたるなりかかれとも寿ありけれはかかるいみ +  タヘテ父母モシワヒテカクフカキテテニタルナリカカレトモ寿アリケレハカカルイミ 
-  しきをすれとももやらすあるなり三蔵此事てさてもいかにしてか此病はやむ +  シキヲスレトモモヤラスアルナリ三蔵此事テサテモイカニシテカ此病ハヤム 
-  へき薬云人はなかりしかやまひ人答云医師ししは首(かうへ)よりうらまてうみしるをすひねふれ +  ヘキ薬云人ハナカリシカヤマヒ人答云医師シシハ首(カウヘ)ヨリウラマテウミシルヲスヒネフレ 
-  平𡀍なむとししかともにたへてよるもなけれはかくてなりといふを三蔵 +  平𡀍ナムトシシカトモニタヘテヨルモナケレハカクテナリトイフヲ三蔵 
-  目よりなみたをなかして云汝不浄れたり又不浄身なり同身 +  目ヨリナミタヲナカシテ云汝不浄レタリ又不浄身ナリ同身 
-  以をきたなかるへきにあらす我汝をすひねふりて秡(すくはむ)をききて病 +  以ヲキタナカルヘキニアラス我汝ヲスヒネフリテ秡(スクハム)ヲキキテ病 
-  人をかみてよりてねふるのさまこと +  人ヲカミテヨリテネフルノサマコト 
-  辟へきなしあたりの木草さへかれにたりすふ間腹わた逆(さかふ)れとも心深きままにもをほえぬ +  辟ヘキナシアタリノ木草サヘカレニタリスフ間腹ワタ逆(サカフ)レトモ心深キママニモヲホエヌ 
-  □てかなしかりけれはねふるのあと膚(はた)てかはきもていくしるつきうみたるうみしるを +  □テカナシカリケレハネフルノアト膚(ハタ)テカハキモテイクシルツキウミタルウミシルヲ 
-  □ひてはき捨如是する𩒐下したよりもとまて下程只𡀍々以いくそのにえもいは +  □ヒテハキ捨如是スル𩒐下シタヨリモトマテ下程只𡀍々以イクソノニエモイハ 
-  □□うはしき香出きぬ又見れは朝日のさしたるかくなる光出きぬてあやしひて此病/d22+  □□ウハシキ香出キヌ又見レハ朝日ノサシタルカクナル光出キヌテアヤシヒテ此病/d22
  
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/22 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/22
  
-  □えもいはす観世菩薩成驚悲てのきて跪典叉手侍此菩薩起居給 +  □エモイハス観世菩薩成驚悲テノキテ跪典叉手侍此菩薩起居給 
-  □たまはく潔聖なりけり其心かために病人形つるなり汝極貴 +  □タマハク潔聖ナリケリ其心カタメニ病人形ツルナリ汝極貴 
-  しかあれは我持心経汝へしをうけてはるかに衆生ひけとてたて +  シカアレハ我持心経汝ヘシヲウケテハルカニ衆生ヒケトテタテ 
-  まつれる心経是也此経説已給えもいはす嗅香つるはてううはしき成 +  マツレル心経是也此経説已給エモイハス嗅香ツルハテウウハシキ成 
-  木草もみちたりと見□金色菩薩かいけつ失給ぬさて此経鬼相 +  木草モミチタリト見□金色菩薩カイケツ失給ヌサテ此経鬼相 
-  読かけなりけりしるし新也如是法門共学集めて唐帰給天竺王種々宝 +  読カケナリケリシルシ新也如是法門共学集メテ唐帰給天竺王種々宝 
-  此中鑊(かなへ)ありたる物共せす其鍋なる物食人速病𡀍 +  此中鑊(カナヘ)アリタル物共セス其鍋ナル物食人速病𡀍 
-  伝のをほやけのにてけるをなりけり聖人賜心毒云川船半許にて +  伝ノヲホヤケノニテケルヲナリケリ聖人賜心毒云川船半許ニテ 
-  たたふきにふて法門仏沈ぬへし聖大願祈給へとなし三蔵のの +  タタフキニフテ法門仏沈ヌヘシ聖大願祈給ヘトナシ三蔵ノノ 
-  給のかうかたふく有様有らむ龍王用する物有其験見給へと祈給程 +  給ノカウカタフク有様有ラム龍王用スル物有其験見給ヘト祈給程 
-  川半より翁指出此鍋乞聖多法門よりは此鍋鍋入なほりて +  川半ヨリ翁指出此鍋乞聖多法門ヨリハ此鍋鍋入ナホリテ 
-  平ぬさて法門とも以渡よりほうさうのそうの法門于今絶/d23+  平ヌサテ法門トモ以渡ヨリホウサウノソウノ法門于今絶/d23
  
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/23 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1192812/23
  
text/uchigiki/uchigiki09.1525407840.txt.gz · 最終更新: 2018/05/04 13:24 by Satoshi Nakagawa