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text:towazu:towazu4-06 [2019/09/19 13:36] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu4-06 [2019/09/19 13:39] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 二十日あまりのほどに江の島といふ所へ着きぬ。所のさま、おもしろしとも、なかなか言の葉ぞなき。漫々たる海の上に離れたる島に、岩屋どもいくらもあるに泊まる。これは千手の岩屋といふとて、薫修練行(くんじゆれんぎやう)も年たけたりと見ゆる山伏一人、行なひてあり。霧((「霧」は底本「きか」。))の籬(まがき)、竹の網戸、おろそかなる物から、艶なる((「物から、艶なる」は底本「物かからんなる」。))住まひなる。かく((「かく」は底本「かゝ」。))山伏経営(けいめい)して、所につけたる貝つ物など取り出でたる。こなたよりも、供とする人の笈(おひ)の中より、都のつととて、扇(あふぎ)など取らすれば、「かやうの住まひには、都の方も言伝(ことづて)なければ、風の便りにも見ず侍るを、今宵なむ昔の友に会ひたる」など言ふも、「さこそ」と思ふ。ことは((「言葉」と読む説もある。))何となく、みな人も静まりぬ。 二十日あまりのほどに江の島といふ所へ着きぬ。所のさま、おもしろしとも、なかなか言の葉ぞなき。漫々たる海の上に離れたる島に、岩屋どもいくらもあるに泊まる。これは千手の岩屋といふとて、薫修練行(くんじゆれんぎやう)も年たけたりと見ゆる山伏一人、行なひてあり。霧((「霧」は底本「きか」。))の籬(まがき)、竹の網戸、おろそかなる物から、艶なる((「物から、艶なる」は底本「物かからんなる」。))住まひなる。かく((「かく」は底本「かゝ」。))山伏経営(けいめい)して、所につけたる貝つ物など取り出でたる。こなたよりも、供とする人の笈(おひ)の中より、都のつととて、扇(あふぎ)など取らすれば、「かやうの住まひには、都の方も言伝(ことづて)なければ、風の便りにも見ず侍るを、今宵なむ昔の友に会ひたる」など言ふも、「さこそ」と思ふ。ことは((「言葉」と読む説もある。))何となく、みな人も静まりぬ。
  
-夜も更けぬれども、はるばるきぬる旅衣(たびごろも)((『伊勢物語』九段「唐衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」。))、思ひ重ぬる苔筵(こけむしろ)は夢結ぶほどもまどろまれず。人には言はぬ忍び音も、袂(たもと)をうるほし侍りて、岩屋のあらはに立ち出でて見れば、雲の波、煙の波も見え分かず。夜の雲おさまり尽きぬれば、月も行く方なきにや、空澄みのぼりて、「まことに((「まことに」は底本「さ(まこ歟)とに」。「さ」に「まこ歟」と傍書。))二千里の外(ほか)まで尋ね来にけり((『白氏文集』八月十五日夜禁中独直対月憶元九「三五夜中新月色 二千里外故人心」。))」と思ゆるに、後ろの山にや、猿の声の聞こゆるも、腸(はらわた)を断つ心地して、心の中(うち)の物悲しさも、ただ今始めたるやうに思ひ続けられて、「一人思ひ一人歎く涙をも干す便りにや」と、都の外(ほか)まで尋ね来しに、「世の憂きことは忍び来にけり」と悲しくて、+夜も更けぬれども、はるばるきぬる旅衣(たびごろも)((『伊勢物語』九段「唐衣着つつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」。))、思ひ重ぬる苔筵(こけむしろ)は夢結ぶほどもまどろまれず。人には言はぬ忍び音も、袂(たもと)をうるほし侍りて、岩屋のあらはに立ち出でて見れば、雲の波、煙の波も見え分かず。夜の雲おさまり尽きぬれば、月も行く方なきにや、空澄みのぼりて、「まことに((「まことに」は底本「さ(まこ歟)とに」。「さ」に「まこ歟」と傍書。))二千里の外(ほか)まで尋ね来にけり((『白氏文集』八月十五日夜禁中独直対月憶元九「三五夜中新月色 二千里外故人心」。))」と思ゆるに、後ろの山にや、猿の声の聞こゆるも、腸(はらわた)を断つ心地して、心の中(うち)の物悲しさも、ただ今始めたるやうに思ひ続けられて、「一人思ひ一人歎く涙をも干す便りにや」と、都の外(ほか)まで尋ね来しに、「世の憂きことは忍び来にけり((『源氏物語』総角「鳥の音も聞こえぬ山と思ひしを世の憂き事は尋ね来にけり」。))」と悲しくて、
  
   杉の庵(いほ)松の柱に篠簾(しのすだれ)憂き世の中をかけ離ればや   杉の庵(いほ)松の柱に篠簾(しのすだれ)憂き世の中をかけ離ればや
text/towazu/towazu4-06.1568867794.txt.gz · 最終更新: 2019/09/19 13:36 by Satoshi Nakagawa