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text:towazu:towazu1-03 [2019/03/09 17:00] – 作成 Satoshi Nakagawatext:towazu:towazu1-03 [2019/03/18 21:16] (現在) – [翻刻] Satoshi Nakagawa
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 これは、障子の内の口に置きたる炭櫃(すびつ)に、しばしは寄りかかりてありしが、衣(きぬ)引きかづきて、寝ぬる後の何事も思ひ分かであるほどに、いつのほどにか、寝おどろきたれば、灯し火もかすかになり、引き物も下してけるにや、障子の奥に寝たるそばに、馴れ顔に寝たる人あり。 これは、障子の内の口に置きたる炭櫃(すびつ)に、しばしは寄りかかりてありしが、衣(きぬ)引きかづきて、寝ぬる後の何事も思ひ分かであるほどに、いつのほどにか、寝おどろきたれば、灯し火もかすかになり、引き物も下してけるにや、障子の奥に寝たるそばに、馴れ顔に寝たる人あり。
  
-「こは何事ぞ」と思ふより、起き出でて去(い)なむとす。起し給はで((「給はで」は底本「給はん」))、「いとけなかりし昔より、思し召し初(そ)めて、十とて四つの月日を待ち暮らしつる」。何くれ、すべて書き続くべき言の葉もなきほどに、仰せらるれども、耳にも入らず、ただ泣くよりほかのことなくて、人の御袂(たもと)まで、乾く所なく泣き濡らしぬれば((「濡らしぬれば」は底本「ぬらくぬれは」))、なぐさめわび給ひつつ、さすが情けなくももてなし給はねども((「もてなし給はねども」は底本「もてなく給はねとも」))、あまりにつれなくて、年も隔て行くを、かかる便りにてだになど思ひ立ちて。今は人もさとこそ知りぬらめに、かくつれなくては、いかがやむべき」と仰せらるれば、「さればよ、人知らぬ夢にてだになくて、人にも知られて、一夜の夢の覚むる間もなく、ものをや思はん」など案ぜらるるは、「なほ、心のありけるにや」とあさまし。+「こは何事ぞ」と思ふより、起き出でて去(い)なむとす。起し給はで((「給はで」は底本「給はん」))、「いとけなかりし昔より、思し召し初(そ)めて、十とて四つの月日を待ち暮らしつる」。何くれ、すべて書き続くべき言の葉もなきほどに、仰せらるれども、耳にも入らず、ただ泣くよりほかのことなくて、人の御袂(たもと)まで、乾く所なく泣き濡らしぬれば((「濡らしぬれば」は底本「ぬらくぬれは」))、なぐさめわび給ひつつ、さすが情けなくももてなし給はねども((「もてなし給はねども」は底本「もてなく給はねとも」))、あまりにつれなくて、年も隔て行くを、かかる便りにてだになど思ひ立ちて。今は人もさとこそ知りぬらめに、かくつれなくては、いかがやむべき」と仰せらるれば、「さればよ、人知らぬ夢にてだになくて、人にも知られて、一夜の夢の覚むる間もなく、ものをや思はん」など案ぜらるるは、「なほ、心のありけるにや((雪の曙・西園寺実兼に対する思い。))」とあさまし。
  
 さらば、「などや、『かかるべきぞ』とも承はりて、大納言をも、よく見せさせ給はざりける」と、「今は人に顔を見すべきかは」と、くどきて泣き居たれば、あまりにいふかひなげに思し召して((「思し召して」は底本「おほくめして」))、うち笑はせ((底本「うちわたせ」。))給ふさへ、心憂く悲し。 さらば、「などや、『かかるべきぞ』とも承はりて、大納言をも、よく見せさせ給はざりける」と、「今は人に顔を見すべきかは」と、くどきて泣き居たれば、あまりにいふかひなげに思し召して((「思し召して」は底本「おほくめして」))、うち笑はせ((底本「うちわたせ」。))給ふさへ、心憂く悲し。
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text/towazu/towazu1-03.1552118443.txt.gz · 最終更新: 2019/03/09 17:00 by Satoshi Nakagawa