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text:senjusho:m_senjusho08-35

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text:senjusho:m_senjusho08-35 [2016/09/28 21:35] – 作成 Satoshi Nakagawatext:senjusho:m_senjusho08-35 [2016/09/28 21:36] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
行 8: 行 8:
 しかあれども、病はのがれぬことにて、五十有余の春の暮れより、病の床に臥して、春暮れ夏過ぎて、九月ばかりになりにけり。日を経るままに、腹おどろおどろしくふくれて、苦しきこと、たとへていふべきかた侍らざりけり。 しかあれども、病はのがれぬことにて、五十有余の春の暮れより、病の床に臥して、春暮れ夏過ぎて、九月ばかりになりにけり。日を経るままに、腹おどろおどろしくふくれて、苦しきこと、たとへていふべきかた侍らざりけり。
  
-その時、奉成思ふやう、「われ、観音を頼み奉ることは、都に上りたりし時、+その時、奉成思ふやう、「われ、観音を頼み奉ることは、都に上りたりし時、
  
-  一人不成二世願。我堕虚妄罪過中、不還本覚捨大悲+  一人不成二世願。我堕虚妄罪過中、不還本覚捨大悲
  
 とて、二世の悲願を救ひ給ふ。 とて、二世の悲願を救ひ給ふ。
行 16: 行 16:
   生老病死苦、以漸悉令滅   生老病死苦、以漸悉令滅
  
-と説かれて、病をやめさせ給ふなり』と説法の侍りしを、聞きはさみて、『今よりは、心長く頼み奉る』と誓ひを発して、三十年の間、五百返の宝号、欠き奉ることなし。観音多くおはしませども、分きて粉河に月詣をすること、また、これ怠らず。されば、われ定業の病を受けて侍りとも、御誓ひ、まことあらば、いかでか今度の命を生け給はざるべき。たとひ、寿命限りありて、身まかるとも、代受苦の御心ましまさば、などかこれほどまで苦しみ侍るべき。すみやかに苦患を救ひましまして、行者の心を正念になし給へ」と、心に深く祈念し侍るほどに、その夜、夢に「粉河の観音なり」と名乗り給ひて、貴げなる僧のいまそかりて、「なんぢ申すところ、ことにいはれありと思し召して、薬を持ちて来((底本、ここから「随喜の涙かきあへさせ給はず、「御」まで本文を欠く。))たれり、早くこれを飲むべし」とて、小さく円(まろ)なる物を三つ賜はせければ、かしこまりて賜はりて、二つをば飲み入れ、一つをば取りはずして、傍らに落しぬ。求めむとするに、夢覚めてけり。+と説かれて、病をやめさせ給ふなり』 
 + 
 +説法の侍りしを、聞きはさみて、『今よりは、心長く頼み奉る』と誓ひを発して、三十年の間、五百返の宝号、欠き奉ることなし。観音多くおはしませども、分きて粉河に月詣をすること、また、これ怠らず。されば、われ定業の病を受けて侍りとも、御誓ひ、まことあらば、いかでか今度の命を生け給はざるべき。たとひ、寿命限りありて、身まかるとも、代受苦の御心ましまさば、などかこれほどまで苦しみ侍るべき。すみやかに苦患を救ひましまして、行者の心を正念になし給へ」と、心に深く祈念し侍るほどに、その夜、夢に「粉河の観音なり」と名乗り給ひて、貴げなる僧のいまそかりて、「なんぢ申すところ、ことにいはれありと思し召して、薬を持ちて来((底本、ここから「随喜の涙かきあへさせ給はず、「御」まで本文を欠く。))たれり、早くこれを飲むべし」とて、小さく円(まろ)なる物を三つ賜はせければ、かしこまりて賜はりて、二つをば飲み入れ、一つをば取りはずして、傍らに落しぬ。求めむとするに、夢覚めてけり。
  
 さばかり苦患ありて、腹の大きにいかめしかりけるをもへり、軽(かろ)く、凉しく、心地よきこと、たとふべきかたなし。傍らに臥したりける妻子を起して、「しかじか」と言ふに、大きに喜びて、取り落しけん一つの薬を求むるに、固く小さき蓮の実なり。香ばしきわざ、沈麝も物の数にあらず。これを錦の袋に縫ひくぐみて、守りにかけてけり。 さばかり苦患ありて、腹の大きにいかめしかりけるをもへり、軽(かろ)く、凉しく、心地よきこと、たとふべきかたなし。傍らに臥したりける妻子を起して、「しかじか」と言ふに、大きに喜びて、取り落しけん一つの薬を求むるに、固く小さき蓮の実なり。香ばしきわざ、沈麝も物の数にあらず。これを錦の袋に縫ひくぐみて、守りにかけてけり。
text/senjusho/m_senjusho08-35.1475066134.txt.gz · 最終更新: 2016/09/28 21:35 by Satoshi Nakagawa