text:kohon:kohon027
差分
このページの2つのバージョン間の差分を表示します。
両方とも前のリビジョン前のリビジョン次のリビジョン | 前のリビジョン最新のリビジョン両方とも次のリビジョン | ||
text:kohon:kohon027 [2014/05/16 22:19] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon027 [2015/01/11 14:36] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
---|---|---|---|
行 1: | 行 1: | ||
+ | 古本説話集 | ||
====== 第27話 河原院の事 ====== | ====== 第27話 河原院の事 ====== | ||
行 11: | 行 12: | ||
大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。 | 大臣(おとど)失せて後、宇多の院には奉りたるなり。醍醐御門は御子にておはしましければ、たびたび行幸ありけり。 | ||
- | まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうにおぼされければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてゐたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)の事なり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りてゐたらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むむるぞ」と、たかやかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。 | + | まだ院の住ませ給ひけるをりに、夜中ばかりに、西の対(たい)の塗籠(ぬりこめ)を開けて、そよめきて人の参るやうに思されければ、見させ給へば、昼(ひ)の装束、うるはしくしたる人の、太刀はき、笏取りて、二間ばかり退きて、かしこまりてゐたり。「あれは誰そ」と、問はせ給へば、「ここの主(ぬし)に候ふ翁なり」と申す。「融(とほる)の大臣か」と問はせ給へば、「しかに候ふ」と申す。「そは何ぞ」と仰せらるれば、「家なれば住み候ふに、おはしますが、かたじけなく、所狭く候ふなり。いかがつかまつるべからん」と申せば、「それはいと異様(ことやう)の事なり。故大臣の子孫の、我に取らせたれはば住むにこそあれ、我、押し取りて居たらばこそあらめ、礼も知らず、いかにかくは恨むるぞ」と、高やかに仰せられければ、かい消つやうに失せぬ。 |
そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはします物なり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞいひける。 | そのをりの人、「なほ、御門はかたことにおはします物なり。ただ人はその大臣に会ひて、さやうにすくよかに言ひてむや」とぞいひける。 | ||
行 21: | 行 22: | ||
その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、眺めて詠める | その後、この院を寺になして、安法君(あほうきみ)といふ人ぞ住みける。冬の夜、月明かかりけるに、眺めて詠める | ||
- | 天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月 | + | 天の原空さへ冴えやわたるらん氷と見ゆる冬の夜の月 |
昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道 | 昔の松の木の、対の西面に生ひたるを、そのころ、歌詠みども集まりて、安法君の房にて詠みける。古曽部(こそべ)の入道 |
text/kohon/kohon027.txt · 最終更新: 2016/01/21 13:11 by Satoshi Nakagawa