text:kohon:kohon019
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text:kohon:kohon019 [2014/09/15 21:44] – [第19話 平中の事] Satoshi Nakagawa | text:kohon:kohon019 [2022/08/10 23:20] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
- | 今は昔、平中といふ色好みの、いみじく思ふ女の、若く美しかりけるを、妻(め)のもとに率(い)て来て置きたり。妻にくげなる事どもを言ひつづくるに、追ひ出だしけり。この妻に従ひて、「いみじうらうたし」とは思ひながら、え留めず。いちはやく言ひければ、近くだにもえ寄らで、四尺の屏風に押しかかりて立てり。 | + | 今は昔、平中((平貞文))といふ色好みの、いみじく思ふ女の、若く美しかりけるを、妻(め)のもとに率(い)て来て置きたり。妻にくげなることどもを言ひつづくるに、追ひ出だしけり。この妻に従ひて、「いみじうらうたし」とは思ひながら、え留めず。いちはやく言ひければ、近くだにもえ寄らで、四尺の屏風に押しかかりて立てり。 |
- | 「世の中の思ひのほかにてある事。いかにしてものし給ふとも、忘れて消息もし給へ。をのれもさなむ思ふに」など、言ひけり。この女は包みなどに物入れしたためて車とりにやりて、待つほどなり。「いとあはれ」と思けり。 | + | 「世の中の思ひのほかにてあること。いかにしてものし給ふとも、忘れて消息もし給へ。をのれもさなむ思ふに」など、言ひけり。この女は包みなどに物入れしたためて車とりにやりて、待つほどなり。「いとあはれ」と思けり。 |
さて、出でにけり。とばかりありて、おこせたる、 | さて、出でにけり。とばかりありて、おこせたる、 | ||
- | 忘らるな忘れやしぬる春霞今朝立ちながら契りつる事 | + | 忘らるな忘れやしぬる春霞今朝立ちながら契りつること |
- | この平中、さしも心に入らぬ女のもとにても、泣かれぬねを、そら泣きをし涙に濡らさむ料に硯瓶に水をいれて、緒をつけて、肘に懸けし歩きつ、顔・袖を濡らしけり。 | + | この平中、さしも心に入らぬ女のもとにても、泣かれぬ音(ね)を、そら泣きをし、涙に濡らさむ料に、硯瓶に水をいれて、緒をつけて、肘に懸けて、し歩きつ顔・袖を濡らしけり。 |
出居の方を、妻覗きて見れば、間木に物をさし置きけるを、出でて後取り下して見れば、硯瓶なり。また、畳紙に丁子入りたり。瓶の水をいうてて、墨を濃く磨りて入れつ。鼠の物を取り集めて丁子に入れ替えつ。さて、もとの様に置きつ。 | 出居の方を、妻覗きて見れば、間木に物をさし置きけるを、出でて後取り下して見れば、硯瓶なり。また、畳紙に丁子入りたり。瓶の水をいうてて、墨を濃く磨りて入れつ。鼠の物を取り集めて丁子に入れ替えつ。さて、もとの様に置きつ。 | ||
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夜明けて見れば、袖に墨ゆゆしげに付きたり。鏡を見れば、顔も真黒に目のみきら((底本「 | 夜明けて見れば、袖に墨ゆゆしげに付きたり。鏡を見れば、顔も真黒に目のみきら((底本「 | ||
- | ろ」の横に「ら」を傍書))めきて、我ながらいと恐しげなり。硯瓶を見れば、墨を磨りて入れたり。畳紙に鼠の物入りたり。いといとあさましく、心憂くて、その後そら泣きの涙、丁子くぐむ事、とどめてけるとぞ。 | + | ろ」の横に「ら」を傍書))めきて、我ながらいと恐しげなり。硯瓶を見れば、墨を磨りて入れたり。畳紙に鼠の物入りたり。いといとあさましく、心憂くて、その後そら泣きの涙、丁子くぐむこと、とどめてけるとぞ。 |
===== 翻刻 ===== | ===== 翻刻 ===== | ||
行 49: | 行 49: | ||
てゐの方をめのそきてみれはまきにものを/b61 e30 | てゐの方をめのそきてみれはまきにものを/b61 e30 | ||
- | さしおきけるをいててのちとりをろして | + | さしをきけるをいててのちとりをろして |
みれはすすりかめ也またたたうかみにちやうし | みれはすすりかめ也またたたうかみにちやうし | ||
いりたりかめの水をいうててすみをこくすりて | いりたりかめの水をいうててすみをこくすりて | ||
行 58: | 行 58: | ||
けてみれは袖にすみゆゆしけにつきたり | けてみれは袖にすみゆゆしけにつきたり | ||
かかみをみれはかほもまくろにめのみきらめき | かかみをみれはかほもまくろにめのみきらめき | ||
- | て我なからいとをそろしけなりすずり/b62 e31 | + | て我なからいとをそろしけなりすすり/b62 e31 |
かめをみれはすみをすりていれたりたたう | かめをみれはすみをすりていれたりたたう |
text/kohon/kohon019.txt · 最終更新: 2022/08/10 23:20 by Satoshi Nakagawa