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text:kohon:kohon009 [2014/05/09 18:42] – [翻刻] Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon009 [2021/10/07 21:17] (現在) Satoshi Nakagawa
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 +古本説話集
 ====== 第9話 伊勢大輔、歌の事 ====== ====== 第9話 伊勢大輔、歌の事 ======
  
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
 +今は昔、紫式部、上東門院((一条天皇中宮彰子))に歌読み優の者にて候ふに、大斎院((選子内親王))より、春つ方、「つれづれに候ふに、さりぬべき物語や候ふ」と尋ね申させ給ひければ、御草子どもとり出ださせ給ひて、「いづれをか参らすべき」など、選り出ださせ給ふに、紫式部、「みな目慣れて候ふに、新しく作りて参らせさせ給ひつかし」と申しければ、「さらば、作れかし」と仰せられければ、源氏は作りて参らせたりけるとぞ。
 +
 +いよいよ心ばせすぐれて、めでたきものにて候ふほどに、伊勢大輔参りぬ。それも歌詠みの筋なれば、殿、いみじうもてなさせ給ふ。奈良より年に一度、八重桜を折りて持て参るを、紫式部、取り次ぎて参らせなど、歌詠みけるに、式部、「今年は大輔に譲り候はむ」とて、譲りければ、取り次ぎて参らするに、殿、「遅し、遅し」と仰せらるる御声につきて、
 +
 +  いにしへの奈良のみやこの八重桜今日九重に匂ひぬるかな
 +
 +「取り次ぎつるほどほどもなかりつるに、いつの間に思ひ続けけむ」と、人も思ふ、殿もおぼしめしたり。
 +
 +めでたくて候ふほどに、致仕(ちじ)の中納言の子の、越前の守とて、いみじうやさしかりける人の妻になりにけり。
 +
 +会ひ始めたりけるころ、石山にこもりて、音せざりければ、遣はしける、
 +
 +  みるめこそあふみの海にかたからめ吹きだに通へ滋賀の浦風
 +
 +と詠みてやりたりけるより、いとど歌おぼえまさりにけり。まことに子孫栄へて、六条の大弐・堀河の大弐など申しける人々、この伊勢大輔の孫なりけり。白河院は曾孫(ひいこ)おはしましけり。
 +
 +一の宮と申しける折、参りて見参らせけるに、「鏡を見よ」とて、賜びたりけるに、給はりて、
 +
 +  君見ればちりも曇らでよろづ代の齢(よはひ)をのみもます鏡かな
 +
 +御返し。大夫殿、宮の御伯父におはします。
 +
 + 曇りなき鏡の光ますますも照らさむ影に隠れざらめや
 ===== 翻刻 ===== ===== 翻刻 =====
  
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   くれてめてたきものにてさふらふほとに伊勢   くれてめてたきものにてさふらふほとに伊勢
   大輔まいりぬそれもうたよみのすちなれはとの   大輔まいりぬそれもうたよみのすちなれはとの
-  いみしうもてなさ給ならよりとしに一度やへさ +  いみしうもてなさ給ならよりとしに一度やへさ 
-  くらををりてもてまいるをむらさき式部ことしは+  くらををりてもてまいるをむらさき式部とりつき 
 +  てまいらせなとうたよみけるに式部ことしは
   大輔にゆつり候はむとてゆつりけれはとりつきてまい   大輔にゆつり候はむとてゆつりけれはとりつきてまい
   らするにとのをそしをそしとおほせらるる御こゑに/b48 e24   らするにとのをそしをそしとおほせらるる御こゑに/b48 e24
text/kohon/kohon009.1399628523.txt.gz · 最終更新: 2014/05/09 18:42 by Satoshi Nakagawa