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text:k_konjaku:k_konjaku30-8 [2015/04/01 18:17] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku30-8 [2015/04/01 18:17] (現在) – [巻30第8話 大納言娘被取内舎人語 第八] Satoshi Nakagawa
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 今昔、□□天皇の御代に、大納言□□の□□と云ふ人有けり。子共数(あまた)有ける中に、形ち美麗に有様微妙き女子、一人有けり。父の大納言、此れを愛し悲て、片時傍を放たずして養ひ傅て、天皇に奉らむとしけるに、其の家に、侍にて仕はれける内舎人□□の□□と云ふ者有けり。 今昔、□□天皇の御代に、大納言□□の□□と云ふ人有けり。子共数(あまた)有ける中に、形ち美麗に有様微妙き女子、一人有けり。父の大納言、此れを愛し悲て、片時傍を放たずして養ひ傅て、天皇に奉らむとしけるに、其の家に、侍にて仕はれける内舎人□□の□□と云ふ者有けり。
  
-事の縁有て、其の家の入立にて近く仕はれける程に、自然ら髴(ほのか)に此の姫君を見てけり。形ち・有様・気はひの世に似ず厳(いつくし)かりけるを見て、此の男、忽に愛欲の心深く発て、思ひ寄るべくも非ぬ事なれども、其の後は万の事思えずして、夜る昼只此の姫君の有様のみ心に懸りて、見ま欲く堪難く思えける程に、畢には病に成て、物なども敢て食はずして、死ぬべき程に成にければ、返々す思ひ繚(わづらひ)て、其の姫君の御方に有ける女に会て、「極たる大事にて、『殿に申すべき事候を、姫御前に申さむ』と思給ふるを、其の事申し給へ」と云ければ、女、「何事を申さむ」と云ければ、男、「此の事を極たる密事(みそかごと)にて、人伝てには否(え)申すまじき事にてなむ有るを、己れ年来此の殿に仕て、内外無き身也。忝くも、端に立出させ給ひたらば、人伝ならで細かに申さむと□む((底本頭注「□ムハ、ナムトアルベシ))思給ふる」と云ければ、女、其の由を聞て、姫君に「此くなむ申す」と、忍びやかに語ければ、姫君、「何事にか有らむ。実に其の男は親く仕はるる者なれば、憚るべきにも非ず。自ら聞かむ」と□□云ければ、女、此の由を告れば、□□喜き物から心騒ぎて、心に思ける様は、「今は生て世に有るべくも思えざりければ、同死を、此の姫君を取て、本意を遂て後に、身をも投て死なむ」と思ひ得て、此も云ふ也けり。+事の縁有て、其の家の入立にて近く仕はれける程に、自然ら髴(ほのか)に此の姫君を見てけり。形ち・有様・気はひの世に似ず厳(いつくし)かりけるを見て、此の男、忽に愛欲の心深く発て、思ひ寄るべくも非ぬ事なれども、其の後は万の事思えずして、夜る昼只此の姫君の有様のみ心に懸りて、見ま欲く堪難く思えける程に、畢には病に成て、物なども敢て食はずして、死ぬべき程に成にければ、返々す思ひ繚(わづらひ)て、其の姫君の御方に有ける女に会て、「極たる大事にて、『殿に申すべき事候を、姫御前に申さむ』と思給ふるを、其の事申し給へ」と云ければ、女、「何事を申さむ」と云ければ、男、「此の事を極たる密事(みそかごと)にて、人伝てには否(え)申すまじき事にてなむ有るを、己れ年来此の殿に仕て、内外無き身也。忝くも、端に立出させ給ひたらば、人伝ならで細かに申さむと□む((底本頭注「□ムハ、ナムトアルベシ))思給ふる」と云ければ、女、其の由を聞て、姫君に「此くなむ申す」と、忍びやかに語ければ、姫君、「何事にか有らむ。実に其の男は親く仕はるる者なれば、憚るべきにも非ず。自ら聞かむ」と□□云ければ、女、此の由を告れば、□□喜き物から心騒ぎて、心に思ける様は、「今は生て世に有るべくも思えざりければ、同死を、此の姫君を取て、本意を遂て後に、身をも投て死なむ」と思ひ得て、此も云ふ也けり。
  
 然は、男、世に有らむ事、残り少く思えて、万づ心細く哀れに思えけれども、此の心思止め難くて、彼の女に会て、「彼(あ)の事何かに。尚急ぎ申すべき事にてなむ有る」と責ければ、女、此の由を姫君に申しければ、姫君、何心も無く端に出て、妻戸の有る簾の内に立て聞かむと為る。 然は、男、世に有らむ事、残り少く思えて、万づ心細く哀れに思えけれども、此の心思止め難くて、彼の女に会て、「彼(あ)の事何かに。尚急ぎ申すべき事にてなむ有る」と責ければ、女、此の由を姫君に申しければ、姫君、何心も無く端に出て、妻戸の有る簾の内に立て聞かむと為る。
text/k_konjaku/k_konjaku30-8.1427879850.txt.gz · 最終更新: 2015/04/01 18:17 by Satoshi Nakagawa