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text:k_konjaku:k_konjaku29-9 [2015/03/08 16:25] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku29-9 [2015/03/08 16:26] (現在) – [巻29第9話 阿弥陀聖殺人宿其家被殺語 第九] Satoshi Nakagawa
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 然れば、家女、此の法師に向て見るに、法師の着たる衣の袖口、急(き)と見ゆ。其れに、我が夫の着て行にし布衣の袖に、色草を縫合たりけるに似たり。女、思ひも寄らねば、然も心も得で有るに、家女、尚此の袖口の極く怪く思えければ、然る気無き様にて見るに、只其れにて有り。 然れば、家女、此の法師に向て見るに、法師の着たる衣の袖口、急(き)と見ゆ。其れに、我が夫の着て行にし布衣の袖に、色草を縫合たりけるに似たり。女、思ひも寄らねば、然も心も得で有るに、家女、尚此の袖口の極く怪く思えければ、然る気無き様にて見るに、只其れにて有り。
  
-其の時に、家女、驚き怖怪むで、隣に行て、密に、「此る事なむ有る。何なる事にか有らむ」と云ければ、隣の人、「其れは極て怪き事にこそ有なれ。若し、盗たるにや有らむ。極く不審(おぼつかな)((底本ルビ「おちつかな」。他の個所に合せて訂正した。))き事也。実に一定(いちぢやう)((底本ルビ「イヂヤウチ」))其の衣と見給はば、聖を捕へて問ふべきにこそ有なれ」と云ければ、家女、「盗み盗まぬは知らず。先づ衣の袖口は、正しく其れ也」と云ければ、隣人、「然らば、法師の逃げぬ前に、疾く問て聞くべき事ななり」と云て、其の郷の若き男共、強力なる四五人許に此の事を聞せて、夜る其の家に呼て、法師の物打食て、思ひも懸で打解て臥たるを、俄に寄て、抑へて搦ければ、法師、「此は何に」と云けれども、只縛りに縛て、引出て足を交(はさ)むで問けれども、「更に我れ犯す事無し」と云て、落ちざりければ、亦人有て、「其の法師の持たりつる袋を開て見よ。家の主の物や有る」と云ければ、「現に然る事也」とて、袋を開て見るに、男の持て出にし物の限り有り。+其の時に、家女、驚き怖怪むで、隣に行て、密に、「此る事なむ有る。何なる事にか有らむ」と云ければ、隣の人、「其れは極て怪き事にこそ有なれ。若し、盗たるにや有らむ。極く不審(おぼつかな)((底本ルビ「おちつかな」。他の個所に合せて訂正した。))き事也。実に一定(いちぢやう)((底本ルビ「イヂヤウチ」。誤植とみて訂正。))其の衣と見給はば、聖を捕へて問ふべきにこそ有なれ」と云ければ、家女、「盗み盗まぬは知らず。先づ衣の袖口は、正しく其れ也」と云ければ、隣人、「然らば、法師の逃げぬ前に、疾く問て聞くべき事ななり」と云て、其の郷の若き男共、強力なる四五人許に此の事を聞せて、夜る其の家に呼て、法師の物打食て、思ひも懸で打解て臥たるを、俄に寄て、抑へて搦ければ、法師、「此は何に」と云けれども、只縛りに縛て、引出て足を交(はさ)むで問けれども、「更に我れ犯す事無し」と云て、落ちざりければ、亦人有て、「其の法師の持たりつる袋を開て見よ。家の主の物や有る」と云ければ、「現に然る事也」とて、袋を開て見るに、男の持て出にし物の限り有り。
  
 「然ればこそ」と云て、其の時に、法師の頂の上に、坏(つき)に火を入れて置て問ければ、其の時になむ、法師、熱さに堪へずして、「実には、其の山中にて男の然々侍りしを、殺して取たる物也。抑も、此れは誰が問ひ給ふぞ」と云ければ、「此れは其の人の家也」と云ければ、法師、「然ては、我れ天の責蒙にけり」とぞ、答へける。 「然ればこそ」と云て、其の時に、法師の頂の上に、坏(つき)に火を入れて置て問ければ、其の時になむ、法師、熱さに堪へずして、「実には、其の山中にて男の然々侍りしを、殺して取たる物也。抑も、此れは誰が問ひ給ふぞ」と云ければ、「此れは其の人の家也」と云ければ、法師、「然ては、我れ天の責蒙にけり」とぞ、答へける。
text/k_konjaku/k_konjaku29-9.1425799518.txt.gz · 最終更新: 2015/03/08 16:25 by Satoshi Nakagawa