ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:k_konjaku:k_konjaku28-1

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
text:k_konjaku:k_konjaku28-1 [2015/02/10 02:39] – [巻28第1話 近衛舎人共稲荷詣重方語 第一] Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku28-1 [2015/02/13 02:22] (現在) – [巻28第1話 近衛舎人共稲荷詣重方値女語 第一] Satoshi Nakagawa
行 12: 行 12:
 其の時に、重方、奇異(あさまし)く思えて、「此は何にし給ふぞ」と云て、仰(あふの)きて女の顔を見れば、早う我が妻の奴の謀たる也けり。重方、奇異く思て、「和御許(わおもと)は物に狂ふか」と云へば、女、「己は何で此く後目(うしろめ)た無き心は仕ふぞ。此の主達の、『後目た無き奴ぞ』と、来つつ告れば、『我を云ひ腹立てむと云ふなめり』と思てこそ、信(うけ)ざりつるを、実を告るにこそ有けれ。己、云つる様に、今日より我が許に来らば、此の御社の御箭目負なむ物ぞ。何かで此は云ぞ。しや頬打欠て、行来の人に見せて、咲はせむと思ふぞ。己よ」と云へば、重方、「物にな狂ひそ。尤も理也」と、咲つつ掍(をこづり)云へども、露許さず。 其の時に、重方、奇異(あさまし)く思えて、「此は何にし給ふぞ」と云て、仰(あふの)きて女の顔を見れば、早う我が妻の奴の謀たる也けり。重方、奇異く思て、「和御許(わおもと)は物に狂ふか」と云へば、女、「己は何で此く後目(うしろめ)た無き心は仕ふぞ。此の主達の、『後目た無き奴ぞ』と、来つつ告れば、『我を云ひ腹立てむと云ふなめり』と思てこそ、信(うけ)ざりつるを、実を告るにこそ有けれ。己、云つる様に、今日より我が許に来らば、此の御社の御箭目負なむ物ぞ。何かで此は云ぞ。しや頬打欠て、行来の人に見せて、咲はせむと思ふぞ。己よ」と云へば、重方、「物にな狂ひそ。尤も理也」と、咲つつ掍(をこづり)云へども、露許さず。
  
-而る間、異舎人共、此の異を知らずして、上の岸に登り立て、「何と田府生は送れたるぞ」と云て見返たれば、女と取組て立てり。舎人共、「彼れは何に為る事ぞ」と云て、立ち返て見れば、妻に打ち□られて立けり。其の時、舎人共、「吉くし給へり。然はこそ年来は申つれ」と、讃め喤しる時に、女、此く云はれて、「此の主達の見るに、此く己がしや心は見顕はす」と云て、髻を免したれば、重方、烏帽子の萎たる引疎(ひきつくろひ)などして、上様へ参ぬ。女は重方に、「己は其の仮借(けさう)しつる女の許に行け。我が許に来てば、必ずしや足折てむ物ぞ」と云て、下様へ行にけり。+而る間、異舎人共、此の異を知らずして、上の岸に登り立て、「何と田府生は送れたるぞ」と云て見返たれば、女と取組て立てり。舎人共、「彼れは何に為る事ぞ」と云て、立ち返て見れば、妻に打ち□られて立けり。其の時、舎人共、「吉くし給へり。然はこそ年来は申つれ」と、讃め喤しる時に、女、此く云はれて、「此の主達の見るに、此く己がしや心は見顕はす」と云て、髻を免したれば、重方、烏帽子の萎たる引疎(ひきつくろひ)などして、上様へ参ぬ。女は重方に、「己は其の仮借(けさう)しつる女の許に行け。我が許に来てば、必ずしや足折てむ物ぞ」と云て、下様へ行にけり。
  
 然て、其の後、然こそ云つれども、重方、家に返来て掍ければ、妻、腹居にければ、重方が云く、「己は、尚、重方が妻なれば、此く厳(いつくし)き態はしたる也」と云ければ、妻、「穴鎌(か)ま、此の白物(しれもの)。目盲(めしひ)の様に、人の気色をも否(え)見知らず、音をも聞知らで、嗚呼を凉(ふるまひ)て((底本頭注「フルマヒテ一本書入ニ従フ。凉或ハ翔ノ誤カ。又一本嗚呼ノフルマヒシテニ作ル」))、人に咲はるるは、極き白事には非ずや」と云てぞ、妻にも咲はれける。 然て、其の後、然こそ云つれども、重方、家に返来て掍ければ、妻、腹居にければ、重方が云く、「己は、尚、重方が妻なれば、此く厳(いつくし)き態はしたる也」と云ければ、妻、「穴鎌(か)ま、此の白物(しれもの)。目盲(めしひ)の様に、人の気色をも否(え)見知らず、音をも聞知らで、嗚呼を凉(ふるまひ)て((底本頭注「フルマヒテ一本書入ニ従フ。凉或ハ翔ノ誤カ。又一本嗚呼ノフルマヒシテニ作ル」))、人に咲はるるは、極き白事には非ずや」と云てぞ、妻にも咲はれける。
text/k_konjaku/k_konjaku28-1.1423503545.txt.gz · 最終更新: 2015/02/10 02:39 by Satoshi Nakagawa