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text:k_konjaku:k_konjaku26-9 [2014/12/16 14:56] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku26-9 [2014/12/21 13:13] (現在) Satoshi Nakagawa
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 而る間、「来む」と云し方を見遣たれば、風打吹て、「海の面奇異(あさまし)く怖し気也」と見程に、海の面□□に成て、光る様に見ゆ。其の中より、大きなる火、二つ出来たり。「何なる事にか」と見程に、「出来合はむ」と云し方を見上たれば、其も山の気色、異く怖し気に成て、草靡き、木葉も騒ぎ、音高く喤合(ののしりあひ)たる中より、亦火二つ出来たり。 而る間、「来む」と云し方を見遣たれば、風打吹て、「海の面奇異(あさまし)く怖し気也」と見程に、海の面□□に成て、光る様に見ゆ。其の中より、大きなる火、二つ出来たり。「何なる事にか」と見程に、「出来合はむ」と云し方を見上たれば、其も山の気色、異く怖し気に成て、草靡き、木葉も騒ぎ、音高く喤合(ののしりあひ)たる中より、亦火二つ出来たり。
  
-澳の方より近く寄来るを見れば、蜈の十丈許ある、游来る。上は□□に光たり。左右の喬(わき)は、赤く光たり。見れば、同長さ許なる蛇の、臥長一抱許なる、下向ふ。嘗づりをして、向合ひたり。彼も此も怖し気なる事、限無し。+澳の方より近く寄来るを見れば、蜈の十丈許ある、游来る。上は□□に光たり。左右の喬(わき)は、赤く光たり。見れば、同長さ許なる蛇の、臥長一抱許なる、下向ふ。嘗づりをして、向合ひたり。彼も此も怖し気なる事、限無し。
  
 実に云しが如に、蛇、彼が登るべき程を置て、頸を差上げて立るを見て、蜈、喜て走り上ぬ。互に目を嗔らかして守て、暫く有り。七人の釣人は、教しままに巌の上に登て、箭を番つつ蛇に眼を懸て立る程に、蜈進て走寄て、咋合(くひあひ)ぬ。互にひしひしと咋ふ程に、共に血肉(ちみどろ)に成ぬ。蜈は手多かる者にて、打□つつ咋は常に上手也。二時許咋ふ程に、蛇少し□たる気付て、釣人共の方に目を見遣(みおこ)せて、「疾く射よ」と思たる気色なれば、七人の者共、寄て、蜈の頭より始て尾に至まで、箭の有ける限り皆射る。彇(はず)本まで残らず射立つ。其の後は、太刀を以て、蜈の手を切ければ、倒れ臥にけり。而れば、蛇、引離れて去(い)ぬれば、弥よ蜈を切殺てけり。其の時に、蛇、□て返入ぬ。 実に云しが如に、蛇、彼が登るべき程を置て、頸を差上げて立るを見て、蜈、喜て走り上ぬ。互に目を嗔らかして守て、暫く有り。七人の釣人は、教しままに巌の上に登て、箭を番つつ蛇に眼を懸て立る程に、蜈進て走寄て、咋合(くひあひ)ぬ。互にひしひしと咋ふ程に、共に血肉(ちみどろ)に成ぬ。蜈は手多かる者にて、打□つつ咋は常に上手也。二時許咋ふ程に、蛇少し□たる気付て、釣人共の方に目を見遣(みおこ)せて、「疾く射よ」と思たる気色なれば、七人の者共、寄て、蜈の頭より始て尾に至まで、箭の有ける限り皆射る。彇(はず)本まで残らず射立つ。其の後は、太刀を以て、蜈の手を切ければ、倒れ臥にけり。而れば、蛇、引離れて去(い)ぬれば、弥よ蜈を切殺てけり。其の時に、蛇、□て返入ぬ。
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 七人の者共、皆本の家に返り、「彼の島へ行む」と云ふ者を、皆倡(いざなひ)具して、密に出立て、船七艘を調へて、作べき物の種共、悉く拈(したため)て、先づ熊田の宮に詣て、事の由申て、船に乗て指出ければ、亦俄に風出来て、七艘乍ら島に渡り着にけり。 七人の者共、皆本の家に返り、「彼の島へ行む」と云ふ者を、皆倡(いざなひ)具して、密に出立て、船七艘を調へて、作べき物の種共、悉く拈(したため)て、先づ熊田の宮に詣て、事の由申て、船に乗て指出ければ、亦俄に風出来て、七艘乍ら島に渡り着にけり。
  
-其の後、其の七人の者共、其の島に居て、田畠を作り、居弘ごりて、員知らず人多く成て今有也。其の島の名をば、猫の島とぞ云なる。其の島の人、年に一度、加賀の国に渡て、熊田の宮を祭けるを、其の国の人、其の由を知て伺なるに、更に見付る事無き也。思も懸けず夜半などに渡り来て、祭て返り去ぬれば、其の跡((底本異体字「足偏に忩))にぞ、「例の祭してけり」と見ゆなる。其の祭、年毎の事として、于今絶えぬ也。其の島は、能登国□□郡に大宮と云ふ所にてぞ、吉く見(みゆ)なる。晴たる日見遣れば、離たる所にて、西高にて青み渡てぞ見ゆなる。+其の後、其の七人の者共、其の島に居て、田畠を作り、居弘ごりて、員知らず人多く成て今有也。其の島の名をば、猫の島とぞ云なる。其の島の人、年に一度、加賀の国に渡て、熊田の宮を祭けるを、其の国の人、其の由を知て伺なるに、更に見付る事無き也。思も懸けず夜半などに渡り来て、祭て返り去ぬれば、其の跡((底本異体字「足偏に忩))にぞ、「例の祭してけり」と見ゆなる。其の祭、年毎の事として、于今絶えぬ也。其の島は、能登国□□郡に大宮と云ふ所にてぞ、吉く見(みゆ)なる。晴たる日見遣れば、離たる所にて、西高にて青み渡てぞ見ゆなる。
  
 去ぬる□□の比、能登の国、□□の常光と云ふ梶取有けり。風に放たれて、彼の島に行たりければ、島の者共出来て、近くは寄せずして、しばらく岸に船繋せて、食物など遣せてぞ、七八日許有ける程に、島の方より風出来たりければ、走り帰((底本異体字「皈」))て、能登の国に返にける。其の後、梶取の語りけるは、「髴(ほのか)に見しかば、其の島には人の家多く造り重て、京の様に小路有ぞ見えし。人の行違ふ事数有き」とぞ語りける。「島の有様を見せじ」とて、近くは寄せざりけるにや。 去ぬる□□の比、能登の国、□□の常光と云ふ梶取有けり。風に放たれて、彼の島に行たりければ、島の者共出来て、近くは寄せずして、しばらく岸に船繋せて、食物など遣せてぞ、七八日許有ける程に、島の方より風出来たりければ、走り帰((底本異体字「皈」))て、能登の国に返にける。其の後、梶取の語りけるは、「髴(ほのか)に見しかば、其の島には人の家多く造り重て、京の様に小路有ぞ見えし。人の行違ふ事数有き」とぞ語りける。「島の有様を見せじ」とて、近くは寄せざりけるにや。
text/k_konjaku/k_konjaku26-9.1418709362.txt.gz · 最終更新: 2014/12/16 14:56 by Satoshi Nakagawa