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text:k_konjaku:k_konjaku23-15 [2014/05/10 15:34] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku23-15 [2015/01/09 17:29] – [巻23第15話 陸奥前司橘則光切殺人語 第(十五)] Satoshi Nakagawa
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 +今昔物語集
 ====== 巻23第15話 陸奥前司橘則光切殺人語 第(十五) ====== ====== 巻23第15話 陸奥前司橘則光切殺人語 第(十五) ======
  
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 則光、突伏て見るに、弓景は見へず。太刀、鑭(きらきら)として見へければ、「弓に非ざりけり」と心安く思て、掻伏して逃るを、追次(おひつづ)きて走来れば、「頭打ち破ぬ」と思へて、俄に傍様に急て寄たれば、追ふ者走り早まりて、え止まり敢ずして、我が前に出来たるを過し立て、太刀を抜て打ければ、頭を中より打破つれば、低(うつぶ)しに倒れぬ。「吉く打つ」 則光、突伏て見るに、弓景は見へず。太刀、鑭(きらきら)として見へければ、「弓に非ざりけり」と心安く思て、掻伏して逃るを、追次(おひつづ)きて走来れば、「頭打ち破ぬ」と思へて、俄に傍様に急て寄たれば、追ふ者走り早まりて、え止まり敢ずして、我が前に出来たるを過し立て、太刀を抜て打ければ、頭を中より打破つれば、低(うつぶ)しに倒れぬ。「吉く打つ」
-と思ふ程に、亦「彼れは何がしたる事ぞ」と云て、走り懸て来る者有り。p44 l2+と思ふ程に、亦「彼れは何がしたる事ぞ」と云て、走り懸て来る者有り。然れば太刀をもえ指敢へずして、脇に挟て逃るを、「けやけき奴かな」と云て、走り懸りて来る者の、初めの者よりは足疾く思へければ、「此れをばよも有つる様には為られじ」と思て、俄に忿り突居たれば、走り早まりたる者、我れに蹴躓(けつまづき)て倒たるを、違て立ち上て起し立てず、頭を打破てけり。
  
-入力途中です。  --- // 中川 2014/05/10 15:32//+「今は此くなめり」と思程に、今一人有ければ、「けやけき奴かな。然てはえ罷らじ」と云て、走り懸て、疾く来ければ、「此の度は被錯(あやまたれ)なむと為る。神仏助け給へ」と、太刀を鉾の様に取成して、走り早まりたる者に俄に立向ひければ、腹を合せて走り当りぬ。彼も太刀を持て切らむとしけれども、余り近くて衣だに切られで、鉾の様に持たる太刀なれば、受けられてより通にけるを、太刀の𣠽(つか)を返しければ、仰様(のけざま)に倒にけるを、太刀を引抜て切ければ、彼れが太刀抜たりける方の肱(かひな)を肩より打落してけり。 
 + 
 +然て、走去(はしりのき)て、「亦や人や有る」と聞けれども、音も無かりければ、走廻て、中の御門に入りて柱に掻副て立て、「小舎人童は何がしつらむ」と待たるに、童、大宮を上(のぼり)に、泣々く行(あるき)けるを、呼ければ、走り来けり。 
 + 
 +其れを宿所に遣して、「着替を取て来(こ)」と云て遣つ。本着たりつる表の衣・指貫には血の付たるを、童に深く隠させて、童の口、吉く固て、太刀の杷に血の付たりけるなど吉く洗ひ拈(したた)めて、表の衣・指貫など着替て、然(さる)気色無くて宿所に入り臥にけり。 
 + 
 +終夜(よもすがら)「此の事若し我がしたる事とや聞へむずらむ」と、胸騒ぎ思ふ程に、夜曙(あけ)ぬれば、云ひ騒ける様、「大宮大炊の御門の辺に、大なる男三人を、幾く程も隔てず切伏たる、極く仕たる太刀かな」と。「互に切て死たるかと、思て吉く見れば、同じ刀の仕ひ様也。敵のしたる事にや。然れど、盗人と思(おぼしき)様にしたるなり」と、云ひ喤(ののしり)て、殿上人共、「去来(いざ)行て見(みん)」など云て皆行くに、則光をも「去来々々」と倡(いざな)ひ将行けば、「行かじ」と思へども、行かぬも亦心得ざる様なれば、渋々にて具して行ぬ。 
 + 
 +車に乗り低て遣り寄せて見れば、実に未だ何にも為さ置たりけり。其れを歳三十許の男の鬘髯(かずらひげ)なるが、無文の袴に紺の洗曝の襖に、款冬(やまぶき)の衣の糸と吉く曝されたるを着て、猪の逆頬(さかづら)の尻鞘したる太刀帯(はき)て、鹿の皮の沓履きたる有り。脇を掻き、指(および)を差て、此向彼向(とむきかうむき)て物を云ふ。「何の男にか有らむ」と思ふ程に、車の共なる雑色共の云く、「彼の男の敵を切殺したるとなむ申」と云ければ、則光、「糸喜(うれ)し」と聞くに、車に乗たる殿上人共、「彼の男召し寄せよ。子細を問はむ」と云て呼(よば)すれば、召将来たり。 
 + 
 +見れば頬(つら)かけにて頤反(そり)たり。鼻下りて赤髪也。目は摺赤めたるにや有らむ、血目に見成て、片膝を突て、太刀の杷に手を懸て居たり。「何なりつる事ぞ」と問へば、「夜半ばかりに『物へ罷』とて此を罷過つるに、者の三人『己は罷り過なむや』と申して、走懸て詣来つるを、『盗人なめり』と思給へて、相構て打伏て候ひつるが、今朝見給ふれば、己を年来『便有らば』と思ふ者共にて候ければ、『敵にて仕たりける事也けり』と思給へて、『しや頸取らむ』と思給へて候也」とて立ぬ。指を差しつつ、低(うつぶゐ((底本「ウツブヰ」とルビ。おそらく「ウツブキ」の誤植)))ぬ仰(あふのき)ぬして語り居れば、公達「あらあら」と云て、問ひ聞けば、弥よ狂ふ様にして、語り居り。 
 + 
 +其の時に、則光、「可咲(をかし)」と思へども、「此の奴の此く名乗れば、譲得て喜し」と思て、面(おも)持上(もたげ)られける。「其の前は、『此の気色や、若し騒がしからむ』と人知ず思ひ居たりけるに、我と名乗る者の出来にたれば、其れに譲てなむ止にし」と老の畢(はて)に子共に向て語けるを、語り伝へたる也。 
 + 
 +此の則光は□□と云ふ人の子也。只今有る駿河前司季通と云ふ人の父也、となむ語り伝へたるとや
text/k_konjaku/k_konjaku23-15.txt · 最終更新: 2017/12/23 03:08 by Satoshi Nakagawa