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text:k_konjaku:k_konjaku23-14 [2014/09/14 01:26] Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku23-14 [2017/12/23 03:05] (現在) – [巻23第14話 左衛門尉平致経導明尊僧正語 第十四] Satoshi Nakagawa
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 ====== 巻23第14話 左衛門尉平致経導明尊僧正語 第十四 ====== ====== 巻23第14話 左衛門尉平致経導明尊僧正語 第十四 ======
  
-今昔、宇治殿の盛に御ましける時、三井寺の明尊僧正は、御祈の夜居(よゐ)に候けるを、御灯(みあかし)油参ざり。暫く許有て、何事すとて遣すとは人知らざりけり、俄に此の僧正を遣して、夜の内に返り参るべき事の有ければ、御厩に、物驚き為ず、早り為ずして、慥ならむ御馬に移(うつし)置て、将参じて居て侍(さぶらふ)に、「此の遣(つかひ)に行くべき物は誰か有る」と尋させ給ひければ、其の時に左衛門尉平致経が候けるを、「致経なむ候ふ」と申ければ、殿、「糸吉(よし)」と仰せられて、其の時は此の僧正は僧都にて有ければ、仰事に「此の僧都、今夜三井寺に行き、軈て立返り、夜の内に此に返り来たらむずる。か様の共、慥に候べき也」と仰せ給れば、致経、其の由を承て、常に宿直(とのゐ)処に弓・胡録を立て、藁沓と云ふ物を一足、畳の下に隠して賤(あやし)の下衆(げす)男一人をぞ置たりければ、此れを見る人、「□細くても有る者かな」と思けるに、此の由を承るままに、袴の扶(くくり)高く上て、喬捜て置きたる者なれば、藁沓を取出して履きて、胡録掻負て、御馬引たる所に出会て立たりければ、僧都出て、「彼(あ)れは誰ぞ」と問に、「致経」と答ける。+今昔、宇治殿((藤原頼通))の盛に御ましける時、三井寺の明尊僧正は、御祈の夜居(よゐ)に候けるを、御灯(みあかし)油参ざり。暫く許有て、何事すとて遣すとは人知らざりけり、俄に此の僧正を遣して、夜の内に返り参るべき事の有ければ、御厩に、物驚き為ず、早り為ずして、慥ならむ御馬に移(うつし)置て、将参じて居て侍(さぶらふ)に、「此の遣(つかひ)に行くべき物は誰か有る」と尋させ給ひければ、其の時に左衛門尉平致経が候けるを、「致経なむ候ふ」と申ければ、殿、「糸吉(よし)」と仰せられて、其の時は此の僧正は僧都にて有ければ、仰事に「此の僧都、今夜三井寺に行き、軈て立返り、夜の内に此に返り来たらむずる。か様の共、慥に候べき也」と仰せ給れば、致経、其の由を承て、常に宿直(とのゐ)処に弓・胡録を立て、藁沓と云ふ物を一足、畳の下に隠して賤(あやし)の下衆(げす)男一人をぞ置たりければ、此れを見る人、「□細くても有る者かな」と思けるに、此の由を承るままに、袴の扶(くくり)高く上て、喬捜て置きたる者なれば、藁沓を取出して履きて、胡録掻負て、御馬引たる所に出会て立たりければ、僧都出て、「彼(あ)れは誰ぞ」と問に、「致経」と答ける。
  
 僧都、「三井寺へ行かむと為るには、何でか歩より行かむずる様には立たるぞ。乗物の無きか」と問ければ、致経、「歩より参り候ふとも、よもおくれ奉らじ。只疾く御ませ」と云ければ、僧都「糸怪き事かな」と思ひ乍ら、火を前きに灯(とも)させて、七八町許行く程に、黒ばみたる物の弓箭を帯せる、向様に歩み来れば、僧都此れを見て恐れ思ふ程に、此の者共、致経を見て突居たり。御馬候ふとて引き出したれば、夜なれば何毛とも見えず。履かむずる沓、提(ひさげ)げて有ければ、藁沓乍ら沓を履きて馬に乗ぬ。 僧都、「三井寺へ行かむと為るには、何でか歩より行かむずる様には立たるぞ。乗物の無きか」と問ければ、致経、「歩より参り候ふとも、よもおくれ奉らじ。只疾く御ませ」と云ければ、僧都「糸怪き事かな」と思ひ乍ら、火を前きに灯(とも)させて、七八町許行く程に、黒ばみたる物の弓箭を帯せる、向様に歩み来れば、僧都此れを見て恐れ思ふ程に、此の者共、致経を見て突居たり。御馬候ふとて引き出したれば、夜なれば何毛とも見えず。履かむずる沓、提(ひさげ)げて有ければ、藁沓乍ら沓を履きて馬に乗ぬ。
text/k_konjaku/k_konjaku23-14.1410625591.txt.gz · 最終更新: 2014/09/14 01:26 by Satoshi Nakagawa