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text:k_konjaku:k_konjaku2-28 [2016/06/05 16:48] – 作成 Satoshi Nakagawatext:k_konjaku:k_konjaku2-28 [2018/07/14 17:47] – [巻2第28話 流離王殺釈種語 第(廿八)] Satoshi Nakagawa
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 **底本、欠文。標題もなし。底本付録「本文補遺」の鈴鹿本により補う。** **底本、欠文。標題もなし。底本付録「本文補遺」の鈴鹿本により補う。**
  
-今昔、天竺の迦毗羅衛国は仏((釈迦))の生れ給へる国也。仏の御類、皆な其の国に有り。此をば釈種と名けて、其の国に勝れて家高き人と為る此れ也。惣て五天竺の中には、迦毗羅衛国の釈種を以て、止事無き人とす。+今昔、天竺の迦毗羅衛国は仏((釈迦))の生れ給へる国也。仏の御類、皆な其の国に有り。此をば釈種と名けて、其の国に勝れて家高き人と為る此れ也。惣て五天竺の中には、迦毗羅衛国の釈種を以て、止事無き人とす。
  
 其の中に、釈摩男と云ふ人有り。国の長者として、智恵明了なる事限無し。然れば、此の人を以て、国の師として、諸の人、物を習ふ。 其の中に、釈摩男と云ふ人有り。国の長者として、智恵明了なる事限無し。然れば、此の人を以て、国の師として、諸の人、物を習ふ。
  
-其の時に、舎衛国の波斯匿王、数(あまた)の后有りと云へども、「迦毗羅衛国の釈種を以て后と為む」と思て、迦毗羅衛国の王の許に使を遣て云く、「此の国に、数の后有りと云へども、皆下劣の輩也。釈種一人を給はりて、后と為む」と。+其の時に、舎衛国の波斯匿王、数(あまた)の后有りと云へども、「迦毗羅衛国の釈種を以て后と為む」と思て、迦毗羅衛国の王の許に使を遣て云く、「此の国に、数の后有りと云へども、皆下劣の輩也。釈種一人を給はりて、后と為む」と。
  
-迦毗羅衛国の王、此の事を聞て、諸の大臣及び賢き人を集めて、議して云く、「舎衛国の波斯匿王、『迦毗羅衛国の釈種を得て后と為む』と申たり。彼の国は、此の国よりは下劣の国なり。譬ひ、后に為むと云ふとも、何でか其の国へ遣らむ。然れども、遣らずば、彼国威勢有る所なれば、来て責むに、更に堪ふべきに非ず」と議し、定め煩ふ程に、一人の賢き大臣の云く、「釈摩男の家の奴婢、某丸が娘、形貌端正也。其を釈種と名付けて遣さむに、何ぞ」と。大王より始め、諸の大臣、「此れ吉き事也」と定し。仍て彼の奴婢の娘を荘(かざ)り立てて、「此れ釈種」と云て、遣しつ。+迦毗羅衛国の王、此の事を聞て、諸の大臣及び賢き人を集めて、議して云く、「舎衛国の波斯匿王、『迦毗羅衛国の釈種を得て后と為む』と申たり。彼の国は、此の国よりは下劣の国なり。譬ひ、后に為むと云ふとも、何でか其の国へ遣らむ。然れども、遣らずば、彼国威勢有る所なれば、来て責むに、更に堪ふべきに非ず」と議し、定め煩ふ程に、一人の賢き大臣の云く、「釈摩男の家の奴婢、某丸が娘、形貌端正也。其を釈種と名付けて遣さむに、何ぞ」と。大王より始め、諸の大臣、「此れ吉き事也」と定し。仍て彼の奴婢の娘を荘(かざ)り立てて、「此れ釈種」と云て、遣しつ。
  
 波斯匿王、此を受け取て見るに、端正美麗なる事限無し。其の国の数の后を校(たくら)ぶるに、此は当るべきに非ず。然れば、王、此を傅く事限無し。名をば末利夫人と云ふ。 波斯匿王、此を受け取て見るに、端正美麗なる事限無し。其の国の数の后を校(たくら)ぶるに、此は当るべきに非ず。然れば、王、此を傅く事限無し。名をば末利夫人と云ふ。
  
-かかる程に、二人の子を生ず。其の子、八歳に成るに、心聡敏なれば、「迦毗羅衛国は母后の本の国なれば睦じ。又、智恵も他国に勝れたり。其の中に、釈摩男と云ふ者有なり。智恵明了にして、福徳殊勝也。聞けば、瓦石も彼れが手に入れば、金銭と成るなり。然れば、国王の大長者と成し、又、国の師として、諸の釈種、此れに随て、物を習ふ。国には、此彼れと等しき者無し。又、汝も同じ釈種なれば、行て彼れに習ふべき也」と云て、出し立て遣る。大臣の子の、同程なるを副へて遣す。+かかる程に、二人の子を生ず。其の子、八歳に成るに、心聡敏なれば、「迦毗羅衛国は母后の本の国なれば睦じ。又、智恵も他国に勝れたり。其の中に、釈摩男と云ふ者有なり。智恵明了にして、福徳殊勝也。聞けば、瓦石も彼れが手に入れば、金銭と成るなり。然れば、国王の大長者と成し、又、国の師として、諸の釈種、此れに随て、物を習ふ。国には、此彼れと等しき者無し。又、汝も同じ釈種なれば、行て彼れに習ふべき也」と云て、出し立て遣る。大臣の子の、同程なるを副へて遣す。
  
 彼の国に行き至て見ば、城の中に一の新く大なる堂有り。其の内に、釈摩男が座、横さまに高く立たり。其の向に、諸の釈種の物習ふ座を立たり。去て、釈種に非ぬ諸の人の物習ふ座を立並べたり。 彼の国に行き至て見ば、城の中に一の新く大なる堂有り。其の内に、釈摩男が座、横さまに高く立たり。其の向に、諸の釈種の物習ふ座を立たり。去て、釈種に非ぬ諸の人の物習ふ座を立並べたり。
  
-其の時に、波斯匿王の子、名をば流離太子と云ふ、釈種座に、「我れも釈種也」と思て登ぬ。諸の人、此を見て云く、「彼の座は、諸の釈種の、大師釈摩男に向て物習ひ給ふ座也。君は波斯匿王の太子也と云へども、此の国の奴婢の娘の子也。何でか、忝く此の座を穢すべき((底本「すべぎ」。誤植とみて訂正))」と云て、追下しつ。+其の時に、波斯匿王の子、名をば流離太子((瑠璃王・毘瑠璃ともいう))と云ふ、釈種座に、「我れも釈種也」と思て登ぬ。諸の人、此を見て云く、「彼の座は、諸の釈種の、大師釈摩男に向て物習ひ給ふ座也。君は波斯匿王の太子也と云へども、此の国の奴婢の娘の子也。何でか、忝く此の座を穢すべき((底本「すべぎ」。誤植とみて訂正))」と云て、追下しつ。
  
 流離太子、「此れ極たる恥也」と思ひ歎て、此の具したる大臣の子に語て云く、「此の座より追ひ下されぬる事、本の国に更に聞かしむべからず。我れ、若し本国の王と成む時、此の諸の釈種を罸(う)つべき也。其の前に、此の事、口の外に出だすべからず」と契り固めて、本国に返ぬ。 流離太子、「此れ極たる恥也」と思ひ歎て、此の具したる大臣の子に語て云く、「此の座より追ひ下されぬる事、本の国に更に聞かしむべからず。我れ、若し本国の王と成む時、此の諸の釈種を罸(う)つべき也。其の前に、此の事、口の外に出だすべからず」と契り固めて、本国に返ぬ。
  
-其の後、波斯匿王死ぬ。流離太子、国の王に即ぬ。此の具たりし大臣の子、大臣に成ぬ。名をば好苦と云ふ。流離王、好苦に相語て云く、「昔し、迦毗羅衛国にして語ひし所の事、今に不□□。今、釈種を罸ちに、彼の国に行向ふべき也」と云て、国の兵、数知らず発して、迦毗羅衛国に行向ふ。+其の後、波斯匿王死ぬ。流離太子、国の王に即ぬ。此の具たりし大臣の子、大臣に成ぬ。名をば好苦と云ふ。流離王、好苦に相語て云く、「昔し、迦毗羅衛国にして語ひし所の事、今に不□□。今、釈種を罸ちに、彼の国に行向ふべき也」と云て、国の兵、数知らず発して、迦毗羅衛国に行向ふ。
  
 其の時に、目連、此の事を聞て、仏の御許に怱ぎ参て言さく、「舎衛国の流離王、釈種を殺(ころさ)せむが為に、数知らぬ兵を具して、此の国に超へ来る。多の釈種は皆殺されなむとす」と。仏の宣はく、「殺さるべき果報をば、何が為む。我れ力及ばず」とて、仏、流離王の来らむと為る跡辺に行向て、枯たる樹の下に坐給へり。 其の時に、目連、此の事を聞て、仏の御許に怱ぎ参て言さく、「舎衛国の流離王、釈種を殺(ころさ)せむが為に、数知らぬ兵を具して、此の国に超へ来る。多の釈種は皆殺されなむとす」と。仏の宣はく、「殺さるべき果報をば、何が為む。我れ力及ばず」とて、仏、流離王の来らむと為る跡辺に行向て、枯たる樹の下に坐給へり。
text/k_konjaku/k_konjaku2-28.txt · 最終更新: 2018/07/14 17:49 by Satoshi Nakagawa