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text:jikkinsho:s_jikkinsho10-00

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text:jikkinsho:s_jikkinsho10-00 [2016/03/05 21:46] (現在)
Satoshi Nakagawa 作成
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 +十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
 +====== 10の序 ある人いはくもとよりその道々の家に生れぬるはさることなり・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +**第十 才芸を庶幾すべき事**
 +
 +ある人いはく、もとよりその道々の家に生れぬるはさることなり、さなきたぐひも、ほどほどにつけては、能は必ずあるべきなり。
 +
 +なかにも、氏を受けたる者、芸おろそかにして、氏を継がぬたぐひあり。道にあらざるたぐひ、能によりて、道にいたる徳もあれば、氏を継がんがため、道に至らんがために、かれもこれも、ともに励むべし。
 +
 +なにとなく居まじりたるをりは、そのけぢめ見えざれども、芸能につけて、召し出だされ、ただうちあるわれどちの遊び、かたへに抜き出でて、なにごとをもしたらむは、雲泥の心地して、人目いみじく思えぬべし。
 +
 +すべて、見もよく品高けれども、あやしくいやしきが能あるに、立ち並ぶをりは、その品その見目も必ず思ひ消たるるものなり。たとへば、花のあたりの常磐木は、うち見るに、たとへなくさめたれども、春の日数暮れ、峰の嵐過ぎぬるのちに、緑ばかり残りて、仮の匂ひ留まらざるがごとし。
 +
 +されば、
 +
 +  桃李は一旦の栄花なり
 +
 +  松樹は千年の貞木なり
 +
 +といへり。
 +
 +いみじくあて、身の能なきが一人あるを見るだに、能あるを思ひ出づる習ひなり。いはんや、能に並ぶをりのけぢめをや。いかにいはむや、同様なるが、一人は能ありて、一人は能なきをや。
 +
 +なかにも、世の中の変りゆくさま、昔よりは次第に衰へもて行くにつけつつ、道々の才芸も、また父祖には及びかたき習ひなれば、藍よりも青からんことは、まことにまれなりといへども、かたのごとくなりとも、箕裘の業を継がざらむ、くちをしかりぬべし。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +    第十可庶幾才芸事
 +  或人云、本ヨリ其道々ノ家ニ生レヌルハサル事也、サナキタ
 +  クヒモ、程々ニツケテハ能ハ必アルヘキ也、中ニモ氏ヲウケタ
 +  ル物芸ヲロカニシテ氏ヲ継ヌ類アリ、道ニアラサル類ヒ/k34
 +
 +  能ニヨリテ道ニイタル徳モアレハ、氏ヲ継カンカタメ、道ニ
 +  イタランカタメニ、彼モ是モ共ニハケムヘシ、ナニトナクヰ交
 +  リタルオリハ、其ケチメ見エサレトモ、芸能ニツケテ召出サ
 +  レ、タタウチアルワレトチノ遊ヒ、カタヘニヌキ出テ何事ヲ
 +  モシタラムハ、雲泥ノ心地シテ、人目イミシク覚エヌヘシ、
 +  スヘテミモヨク品高ケレトモ、アヤシクイヤシキカ能アル
 +  ニ立ナラフオリハ、其シナソノミメモ必思ケタルルモノ也、タト
 +  ヘハ花ノアタリノ常磐木ハ、ウチミルニタトヘナクサメタレ
 +  トモ春ノ日数クレ、峰ノ嵐スキヌル後ニ、ミトリハカリ
 +  残リテ、カリノ匂トトマラサルカコトシ、サレハ桃李ハ一旦ノ/k35
 +
 +  栄花ナリ、松樹ハ千年ノ貞木ナリト云リ、イミシク
 +  アテミノ能ナキカ一人アルヲ見タニ能アルヲ思出ル習
 +  也、況ヤ能ニナラフオリノケチメヲヤ、何況ヤ同様ナルカ、
 +  一人ハ能アリテ、一人ハ能ナキヲヤ、中ニモ世中ノカハリユ
 +  クサマ、昔ヨリハ次第ニ衰ヘモテ行ニツケツツ、道々ノ
 +  才芸モ、又父祖ニハ及ヒカタキ習ナレハ、藍ヨリモ青
 +  カラン事ハ、マコトニ希ナリトイヘトモ、如形ナリトモ箕裘
 +  ノ業ヲツカサラム、口惜カリヌヘシ/k36
  


text/jikkinsho/s_jikkinsho10-00.txt · 最終更新: 2016/03/05 21:46 by Satoshi Nakagawa