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text:jikkinsho:s_jikkinsho07-21 [2016/02/10 03:03] – 作成 Satoshi Nakagawatext:jikkinsho:s_jikkinsho07-21 [2016/02/10 03:04] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 ある日、門を入らせおはしますに、御先に進みて、走りめぐりて吠えければ、立ちどまらせ給ひて御覧ずるに、させることなかりければ、なほ歩み入らせ給ふに、犬、御直衣の襴(らん)を食ひて引き止め奉りければ、「いかにも、やうあるべし」と、榻を召して、御尻をかけて居給ひて、たちまちに晴明を召して、子細を仰せらるるに、しばらく眠りて、思惟したる気色にて申すやう、「君を呪詛し奉るもの、厭術物を道に埋みて、『越えさせ奉らん』と、かまへ侍るなり。御運、やむごとなくして((「なくして」は底本「なりして」。諸本により訂正。))、この犬、吠えあらはすところなり。犬、もとより小神通のものなり」とて、その所を指して、掘らするに、土器(かはらけ)をうち合はせて、黄なる紙ひねりにて、十文字にからげたるを、掘りおこして、解きて見るに、入りたる物はなくして、朱砂にて、一文字を土器に書けり。 ある日、門を入らせおはしますに、御先に進みて、走りめぐりて吠えければ、立ちどまらせ給ひて御覧ずるに、させることなかりければ、なほ歩み入らせ給ふに、犬、御直衣の襴(らん)を食ひて引き止め奉りければ、「いかにも、やうあるべし」と、榻を召して、御尻をかけて居給ひて、たちまちに晴明を召して、子細を仰せらるるに、しばらく眠りて、思惟したる気色にて申すやう、「君を呪詛し奉るもの、厭術物を道に埋みて、『越えさせ奉らん』と、かまへ侍るなり。御運、やむごとなくして((「なくして」は底本「なりして」。諸本により訂正。))、この犬、吠えあらはすところなり。犬、もとより小神通のものなり」とて、その所を指して、掘らするに、土器(かはらけ)をうち合はせて、黄なる紙ひねりにて、十文字にからげたるを、掘りおこして、解きて見るに、入りたる物はなくして、朱砂にて、一文字を土器に書けり。
  
-晴明、申していはく、「この術は、極めたる秘事なり。晴明がほか、知る者なし。ただし、道摩法師の所為か。その一人ぞ知るべし」とて、懐紙(ふところがみ)取り出でて、鳥の形をゑりて、呪を唱へて投げ上ぐるに、白鷺となりて、南を指して行く。「この鳥の落ちとまらむ所を、厭術物の住む所と知るべし」と申しければ、下部(しもべ)、かの白鳥の行方(ゆくへ)をまもりて、つけて行くあいひだ、六条坊門、万里小路、河原院の古き跡、折戸の内に落ちぬ。+晴明、申していはく、「この術は、極めたる秘事なり。晴明がほか、知る者なし。ただし、道摩法師((蘆屋道満とも))の所為か。その一人ぞ知るべし」とて、懐紙(ふところがみ)取り出でて、鳥の形をゑりて、呪を唱へて投げ上ぐるに、白鷺となりて、南を指して行く。「この鳥の落ちとまらむ所を、厭術物の住む所と知るべし」と申しければ、下部(しもべ)、かの白鳥の行方(ゆくへ)をまもりて、つけて行くあいひだ、六条坊門、万里小路、河原院の古き跡、折戸の内に落ちぬ。
  
 よりて、捜りまもるところに、老僧一人あり。すなはち搦め取りて行方を問はる。道摩、堀河の右府((藤原頼宗))のかたらひにて、術をほどこす由、申しけれども、罪をば行はれず。本国播磨へ追ひつかはす。ただし、永くかくのごとき術、致すべからざる由、誓状を召さる。 よりて、捜りまもるところに、老僧一人あり。すなはち搦め取りて行方を問はる。道摩、堀河の右府((藤原頼宗))のかたらひにて、術をほどこす由、申しけれども、罪をば行はれず。本国播磨へ追ひつかはす。ただし、永くかくのごとき術、致すべからざる由、誓状を召さる。
text/jikkinsho/s_jikkinsho07-21.1455041018.txt.gz · 最終更新: 2016/02/10 03:03 by Satoshi Nakagawa