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text:hosshinju:h_hosshinju8-12

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text:hosshinju:h_hosshinju8-12 [2017/08/15 12:52]
Satoshi Nakagawa 作成
text:hosshinju:h_hosshinju8-12 [2017/08/15 12:53] (現在)
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
ライン 4: ライン 4:
 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-近く、前兵衛尉なる男ありけり。 +近く、前兵衛尉なる男ありけり。弟は検非違使になり、大夫少輔(たいふのせふ)まで至りて世にあひたるを、かく数ならぬことの心憂く思えければ、年ごろ賀茂につかうまつる者にて、ことに信をいたして、うち続き日ごろ詣でつつ、泣く泣くこのことを祈り申す間に、御殿に居したりける夜、夢に見るやう、御前に候ひて、うつつにも思ふことどもを、涙を流しつつ、かきくどき申すほどに、宝殿の御戸(みと)を開き給ふ。「あな、かたじけな」と畏(かしこま)り恐れて、え眼をあてず。うつぶしたるに、夜のうちの、ことに明かくなるやうに思ゆるを、あやしくて、きと見上げたれば、社の内、阿弥陀如来、あきらかに現じ給へり。その御光の十方に輝(かかや)けるなり。いと貴く、めでたく思えて、涙を流しつつ、拝み奉ると思ふほどに、夢覚めぬ。
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-弟は検非違使になり、大夫少輔(たいふのせふ)まで至りて世にあひたるを、かく数ならぬことの心憂く思えければ、年ごろ賀茂につかうまつる者にて、ことに信をいたして、うち続き日ごろ詣でつつ、泣く泣くこのことを祈り申す間に、御殿に居したりける夜、夢に見るやう、御前に候ひて、うつつにも思ふことどもを、涙を流しつつ、かきくどき申すほどに、宝殿の御戸(みと)を開き給ふ。「あな、かたじけな」と畏(かしこま)り恐れて、え眼をあてず。うつぶしたるに、夜のうちの、ことに明かくなるやうに思ゆるを、あやしくて、きと見上げたれば、社の内、阿弥陀如来、あきらかに現じ給へり。その御光の十方に輝(かかや)けるなり。いと貴く、めでたく思えて、涙を流しつつ、拝み奉ると思ふほどに、夢覚めぬ。+
  
 その後、つくづくとこのことを思ふに、「わが申すことを、聞こしめし入れぬことを思ひてこそ口惜しかりつれ、かくあらはれて見給ふにては、もし、この生のことは、前の世の業報にて、神も力及び給はぬか。また、今生は思しめすがごとくして、本地のおはします方をあらはし給へるは、御はからひ浅からぬことなめり」と頼もしく思えけるより、さるべきにやありけん、心発(おこ)すて、やがて、頭(かしら)おろしてけり。 その後、つくづくとこのことを思ふに、「わが申すことを、聞こしめし入れぬことを思ひてこそ口惜しかりつれ、かくあらはれて見給ふにては、もし、この生のことは、前の世の業報にて、神も力及び給はぬか。また、今生は思しめすがごとくして、本地のおはします方をあらはし給へるは、御はからひ浅からぬことなめり」と頼もしく思えけるより、さるべきにやありけん、心発(おこ)すて、やがて、頭(かしら)おろしてけり。


text/hosshinju/h_hosshinju8-12.txt · 最終更新: 2017/08/15 12:53 by Satoshi Nakagawa