text:hosshinju:h_hosshinju6-08
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text:hosshinju:h_hosshinju6-08 [2017/06/24 23:40] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:hosshinju:h_hosshinju6-08 [2017/06/25 23:27] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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発心集 | 発心集 | ||
- | ====== 第六第7話(69) 永秀法師、数寄の事 ====== | + | ====== 第六第8話(70) 時光・茂光の数寄、天聴に及ぶ事 ====== |
===== 校訂本文 ===== | ===== 校訂本文 ===== | ||
- | 八幡別当((石清水八幡宮別当))頼清が遠流(ゑんる)にて、永秀法師といふものありけ | + | 中ごろ、市正時光(いちのかみときみつ)といふ笙吹きありけり。茂光といふ篳篥師と囲碁を打ちて、同じ声に裹頭楽を唱歌(しやうが)にしけるが、おもしろく思えけるほどに、内より、とみのことにて、時光を召しけり。 |
- | り。家、貧しくて、心、すけりける。夜昼、笛を吹より外のことなし。かしがましさに耐へぬ隣家(となりいへ)((底本「トナリ家ニ」。衍字とみて「ニ」を削除))、やうやう立ち去りて、後には人もなくなりにけれど、さらにいたまず。さこそ貧しけれど、落ちぶれたるふるまひなどはせざりければ、さすがに、人いやしむべきことなし。 | + | |
- | 頼清、聞きあはれみて、使やりて、「などかは、何ごとものたまはせぬ。かやうに侍れば、さらぬ人だに、ことにふれて、さのみこそ申し承ることにて侍れ。うとく思すべからず。便りあらんことは、憚らずのたまはせよ」と言はせたりければ、「返す返す、かしこまり侍り。年ごろも、『申さばや』と思ひながら、身のあやしさに、かつは恐れ、かつは憚りて、まかり過ぎ侍るなり。深く望み申すべきこと侍り。すみやかに参りて申し侍るべし」と言ふ。 | + | 御使(おんつかひ)、至りてこのよしを言ふに、いかにも耳にも聞き入れず、ただもろともにゆるぎあひて、ともかくも申さざりければ、御使、帰り参りて、このよしをありのままにぞ申す。 |
- | 「何事にか、よしなき情をかけて、うるさきことや言ひかけられん」と思へど、「かの身のほどには、いかばかりのことかあらん」と思ひあなづりて過ごすほどに、あるかた夕暮れに出で来たれり。すなはち出で合ひて、「何ごとに」など言ふ。「浅からぬ所望侍るを、思ひ給へてまかり過ぎ侍りしほどに、一日仰せを悦びて、さうなく参りて侍る」と言ふ。「疑ひなく、所知など望むべきなめり」と思ひて、これを尋ぬれば、「筑紫に御領多く侍れば、漢竹(かんちく)の笛のこと、よろしく侍らん。一つ召して給はらん。これ、身に取りて極まれる望みにて侍れど、あやしの身には得がたき物にて、年ごろえまうけ侍らず」と言ふ。 | + | 「いかなる御いましめかあらん」と思ふほどに、「いとあはれなる者どもかな。さほどに楽にめでて、何ごとも忘るばかり思ふらんこそ、いとやむごとなけれ。王位は口惜しきものなりけり。行てもえ聞かぬこと」とて、涙ぐみ給へりければ、思の外になむありけり。 |
- | 思ひの外に、いとあはれに思えて、「いといと安きことにこそ。すみやかに尋ねて、奉るべし。その外、御用ならんことは侍らずや。月日を送り給ふらんことも、心にくからずこそ侍るに。さやうのことも、などかは承らざらん」と言へば、「御志はかしこまり侍り。されど、それはこと欠け侍らず。二・三月に、かく帷(かたびら)一つまうけつれば、十月までは、さらに望む所なし。また、朝夕のことは、おのづからあるにまかせつつ、とてもかくても過ぎ侍り」と言ふ。 | + | これらを思へば、この世のこと思ひ捨てむことも、数寄はことに便りとなりぬべし。 |
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- | 「げに、数寄者(すきもの)にこそ」と、あはれにありがたく思えて、笛、急ぎ尋ねつつ送りけり。また、さこそ言へど、月ごとの用意など、まめやかなることども、あはれみ沙汰しければ、それがあるかぎりは、八幡((石清水八幡宮))の楽人呼び集めて、これに酒まうけて、日暮らし楽をす。失すればまた、ただ一人、笛吹きて明かし暮らしける。 | + | |
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- | 後には、笛の功積りて、並びなき上手になりけり。 | + | |
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- | かやうならん心は、何につけてかは、深き罪も侍らん。 | + | |
===== 翻刻 ===== | ===== 翻刻 ===== | ||
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- | + | リ御使イタリテ此由ヲイフニ。如何ニモ耳ニモ聞入ズ | |
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- | レドヲチブレタル振廻ナドハセザリケレバ。サスガニ人イ | + | |
- | | + | シメカアラント思ホドニ。イト哀ナル者トモカナ。サホ/n21l |
- | ハ何事モノ給ハセヌ。カヤウニ侍レバサラヌ人ダニ事ニ | + | |
- | フレテサノミコソ申承事ニテ侍レ。ウトクオボスベカラ | + | |
- | ス便アラン事ハ憚ラスノ給ハセヨトイハセタリケレバ。 | + | |
- | 返々カシコマリ侍リ。年来モ申バヤト思惟ナガラ身 | + | |
- | | + | |
- | 望申ベキ事侍。スミヤカニ参テ申侍ベシト云。何事ニ | + | |
- | カヨシナキ情ヲカケテ。ウルサキ事ヤイヒカケラレン/n20r | + | |
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- | ナツリテ過ス程ニ。アルカタ夕暮ニ出来レリ則出合テ | + | |
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- | 云。疑ナク所知ナド望ベキナメリト思テ是ヲ尋レハ | + | |
- | 筑紫ニ御領オホク侍ハ。カンチクノ笛ノ事ヨロシク侍ン | + | |
- | 一ツメシテ給ラン。コレ身ニ取テキハマレル望ニテ侍ト | + | |
- | アヤシノ身ニハ得ガタキ物ニテ年来ヱマウケ侍ス | + | |
- | トイフ。思ノ外ニイト哀ニ覚ヘテ。イトイト安事ニコ | + | |
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- | 月日ヲ送リ給ラン事モ心ニクカラズコソ侍ニ。サヤウ | + | |
- | ノ事モナドカハ承ハラザラントイヘハ。御志ハカシコマリ | + | |
- | 侍リ。サレド其ハ事カケ侍ズ。二三月ニカク帷一ツ設 | + | |
- | ツレバ。十月マデハ更ニノゾム所ナシ。又朝夕ノ事ハヲノ | + | |
- | ヅカラアルニマカセツツトテモカクテモ過侍トイフ。 | + | |
- | 実スキモノニコソト哀ニアリガタク覚ヘテ笛イソ | + | |
- | ギ尋ツツ送リケリ。又サコソイヘド月ゴトノ用意 | + | |
- | ナド。マメヤカナル事ドモ哀ミ沙汰シケレバ。其カ有 | + | |
- | カキリハ八幡ノ楽人ヨビアツメテ。コレニ酒マウケテ | + | |
- | 日クラシ楽ヲス。失レバ又只一人笛フキテ明シ暮/n21r | + | |
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- | リ。カヤウナラン心ハ何ニツケテカハ深キ罪モ侍ラン。/n21l | + | |
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+ | ヘバ此世ノ事思ステム事モ数寄ハコトニタヨリトナ | ||
+ | リヌベシ/n22r | ||
text/hosshinju/h_hosshinju6-08.1498315247.txt.gz · 最終更新: 2017/06/24 23:40 by Satoshi Nakagawa