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発心集

第六第8話(70) 時光・茂光の数寄、天聴に及ぶ事

校訂本文

中ごろ、市正時光(いちのかみときみつ)といふ笙吹きありけり。茂光といふ篳篥師と囲碁を打ちて、同じ声に裹頭楽を唱歌(しやうが)にしけるが、おもしろく思えけるほどに、内より、とみのことにて、時光を召しけり。

御使(おんつかひ)、至りてこのよしを言ふに、いかにも耳にも聞き入れず、ただもろともにゆるぎあひて、ともかくも申さざりければ、御使、帰り参りて、このよしをありのままにぞ申す。

「いかなる御いましめかあらん」と思ふほどに、「いとあはれなる者どもかな。さほどに楽にめでて、何ごとも忘るばかり思ふらんこそ、いとやむごとなけれ。王位は口惜しきものなりけり。行てもえ聞かぬこと」とて、涙ぐみ給へりければ、思の外になむありけり。

これらを思へば、この世のこと思ひ捨てむことも、数寄はことに便りとなりぬべし。

翻刻

  時光茂光数奇及天聴事
中比市正時光ト云笙吹アリケリ。茂光ト云篳篥
師ト囲棊ヲ打テ同シ声ニ裹頭楽ヲ唱歌ニシケルガ
面白オボヘケル程ニ内ヨリトミノ事ニテ時光ヲ召ケ
リ御使イタリテ此由ヲイフニ。如何ニモ耳ニモ聞入ズ
只モロトモニユルギアヒテ。トモカクモ申ザリケレバ。御使
カヘリ参リテ此由ヲ有ノママニゾ申ス。如何ナル御イマ
シメカアラント思ホドニ。イト哀ナル者トモカナ。サホ/n21l
トニ楽ニメデテ何事モ忘ハカリ思ランコソイトヤム事
ナケレ。王位ハ口惜キモノナリケリ。行テモエ聞ヌ事ト
テ涙グミ給ヘリケレバ。思ノ外ニナム有ケリ。是等ヲ思
ヘバ此世ノ事思ステム事モ数寄ハコトニタヨリトナ
リヌベシ/n22r
text/hosshinju/h_hosshinju6-08.txt · 最終更新: 2017/06/25 23:27 by Satoshi Nakagawa
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