text:hosshinju:h_hosshinju1-01
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text:hosshinju:h_hosshinju1-01 [2017/03/16 20:41] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:hosshinju:h_hosshinju1-01 [2017/03/16 23:52] (現在) – [翻刻] Satoshi Nakagawa | ||
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かれも見知れる気色ながら、ことさら目見あはず。走り寄りて、「いかでか、かくては」とも言ひまほしけれど、いたく人しげければ、「なかなかあやしかりぬべし。上りざまに、夜など、居給へらむ所に尋ね行きて、のどかに聞こへむ」とて、過ぎにけり。 | かれも見知れる気色ながら、ことさら目見あはず。走り寄りて、「いかでか、かくては」とも言ひまほしけれど、いたく人しげければ、「なかなかあやしかりぬべし。上りざまに、夜など、居給へらむ所に尋ね行きて、のどかに聞こへむ」とて、過ぎにけり。 | ||
- | かくて、帰るさに、その渡りに至りて見れば、あらぬ渡守なり。まづ、目暗れ、胸ふたがりて、細かに尋ぬれば、「さる法師侍り。年ごろ、この渡守にて侍りしを、さやうの下臈ともなく、常に心を澄まして、念仏をのみ申して、かずかずに船賃取ることもなくして、ただ今うち食ふ物などの外の物をむさぶる心もなく侍りしかば、このの郷の人も、いみじういとほしうし侍りしほどに、いかなることかありけむ、過ぎぬるころ、掻き消つやうに失せて、行方も知らず」と語るに、悔しくわりなく思えて、その月日を数ふれば、わが見あひたる時にぞありける。「身の有様を知られぬ」とて、また去りにけるなるべし。 | + | かくて、帰るさに、その渡りに至りて見れば、あらぬ渡し守なり。まづ、目暗れ、胸ふたがりて、細かに尋ぬれば、「さる法師侍り。年ごろ、この渡し守にて侍りしを、さやうの下臈ともなく、常に心を澄まして、念仏をのみ申して、かずかずに船賃取ることもなくして、ただ今うち食ふ物などの外の物をむさぶる心もなく侍りしかば、このの郷の人も、いみじういとほしうし侍りしほどに、いかなることかありけむ、過ぎぬるころ、掻き消つやうに失せて、行方も知らず」と語るに、悔しくわりなく思えて、その月日を数ふれば、わが見あひたる時にぞありける。「身の有様を知られぬ」とて、また去りにけるなるべし。 |
このことは、物語にも書きて侍るとなむ。人のほのぼの語りしばかりを書きけるなり。 | このことは、物語にも書きて侍るとなむ。人のほのぼの語りしばかりを書きけるなり。 | ||
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発心集第一 | 発心集第一 | ||
玄敏僧都遁世逐電事 | 玄敏僧都遁世逐電事 | ||
- | 昔玄敏僧都と云人有けり。山階寺のやむことなき | + | 昔玄敏僧都ト云人有ケリ。山階寺ノヤムコトナキ |
- | 智者也けれど。世を猒心深して。更に寺の交をこのまず。 | + | 智者也ケレド。世ヲ猒心深シテ。更ニ寺ノ交ヲコノマズ。 |
- | 三輪河のほとりに僅なる草の菴を結てなむ思つつ住 | + | 三輪河ノホトリニ僅ナル草ノ菴ヲ結テナム思ツツ住 |
- | | + | |
- | 遁へき方なくてなましゐに参にけり。されども猶本意な | + | 遁ヘキ方ナクテナマシヰニ参ニケリ。サレドモ猶本意ナ |
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- | 三輪川のきよき流れにすすきてし衣の袖を又はけかさし/n5l | + | 三輪川ノキヨキ流レニススキテシ衣ノ袖ヲ又ハケカサシ/n5l |
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- | 何ちともなく失にけり。さるべき所に尋求むれど更になし。云 | + | 何チトモナク失ニケリ。サルベキ所ニ尋求ムレド更ニナシ。云 |
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- | 世のなげきにてぞ有ける其後年来経て第子なりける | + | 世ノナゲキニテゾ有ケル其後年来経テ第子ナリケル |
- | 人事の便ありて。こしの方へ行ける道に或所に大なる | + | 人事ノ便アリテ。コシノ方ヘ行ケル道ニ或所ニ大ナル |
- | 河あり。渡舟待得て乗たるほとに此渡守を見れば。頭はをつ | + | 河アリ。渡舟待得テ乗タルホトニ此渡守ヲ見レバ。頭ハヲツ |
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- | 見なれたる様に覚ゆるを。誰かは此に似たると思めくらす | + | 見ナレタル様ニ覚ユルヲ。誰カハ此ニ似タルト思メクラス |
- | 程に。失て年来に成ぬる我師の僧都に見成つ。/n6r | + | 程ニ。失テ年来ニ成ヌル我師ノ僧都ニ見成ツ。/n6r |
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- | 夜など居給らむ所に尋行てのどかに聞へむとて過にけり。 | + | 夜ナド居給ラム所ニ尋行テノドカニ聞ヘムトテ過ニケリ。 |
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- | 此渡守にて侍りしを。さやうの下臈ともなく常に心を | + | 此渡守ニテ侍リシヲ。サヤウノ下臈トモナク常ニ心ヲ |
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- | 只今うち食物などの外の物をむさぶる心も無く侍/n6l | + | 只今ウチ食物ナドノ外ノ物ヲムサブル心モ無ク侍/n6l |
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- | 有けむ過ぬる比かきけつ様に失て行方も知らすと語るに。 | + | 有ケム過ヌル比カキケツ様ニ失テ行方モ知ラスト語ルニ。 |
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- | 此事は物語にも書て侍るとなむ人のほのほの語しはかりを | + | 此事ハ物語ニモ書テ侍ルトナム人ノホノホノ語シハカリヲ |
- | 書けるなり又古今歌に | + | 書ケルナリ又古今歌ニ |
- | 山田もる僧都の身こそ哀れなれ秋はてぬれは問人もなし | + | 山田モル僧都ノ身コソ哀レナレ秋ハテヌレハ問人モナシ |
- | 此も彼玄敏の哥と申侍へり。雲風の如くさすらへ | + | 此モ彼玄敏ノ哥ト申侍ヘリ。雲風ノ如クサスラヘ |
- | 行ければ田なと守る時も有けるにこそ。近比三井寺の | + | 行ケレバ田ナト守ル時モ有ケルニコソ。近比三井寺ノ |
- | 道顕僧都ときこゆる人侍べりき。彼物語を見て涙を/n7r | + | 道顕僧都トキコユル人侍ベリキ。彼物語ヲ見テ涙ヲ/n7r |
- | 流つつ渡守こそげに罪なくて世を渡る道なりけるとて。 | + | 流ツツ渡守コソゲニ罪ナクテ世ヲ渡ル道ナリケルトテ。 |
- | 水海の方に舟を一まうけられたりけるとかや。其事あら | + | 水海ノ方ニ舟ヲ一マウケラレタリケルトカヤ。其事アラ |
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- | 心さしは猶ありがたくそ侍し/n7l | + | 心サシハ猶アリガタクソ侍シ/n7l |
text/hosshinju/h_hosshinju1-01.1489664509.txt.gz · 最終更新: 2017/03/16 20:41 by Satoshi Nakagawa