大和物語
同じ御門1)の御時、躬恒2)を召して、月のいとおもしろき夜、御遊びなどありて、「月を弓張(ゆみはり)といふは、何の心ぞ。そのよし、つかうまつれ」と仰せ給ひければ、御階(みはし)のもとにさぶらひて、つかうまつりける。
照る月を弓張とのみいふことは山の端(は)さしていればなりけり
禄(ろく)に大袿(おほうちぎ)かづきて、また、
白雲のこのかたにしもおりゐるは天つ風こそ吹きてきつらし
おなしみかとの御とき躬恒をめして 月のいとおもしろきよ御あそひなと ありて月をゆみはりといふはなにの こころそそのよしつかうまつれと おほせたまひけれはみはしのもとに さふらひてつかうまつりける/d20l
てる月をゆみはりとのみいふことは やまのはさしていれはなりけり ろくにおほうちきかつきて又 しら雲のこのかたにしもをりゐ るはあまつかせこそふきてきつらし/d21r