大和物語
同じ女1)、内の曹司(ざうし)に住みける時、忍びて通ひ給ふ人ありけり。頭なりければ、殿上につねにさぶらひ給ひけり。
雨の降る夜、曹司の蔀(しとみ)のつらに立ち寄り給ひけるも知らで、雨の漏りければ、筵(むしろ)をひき返すとて、
思ふ人雨と降りくるものならばわがもる床(とこ)はかへさざらまし
となむ、うち言ひければ、「あはれ」と聞きて、ふと這ひ入り給ひにけり。
おなし女うちのさうしにすみける ときしのひてかよひたまふ人あり けり頭なりけれは殿上につねに さふらひたまひけりあめのふるよ さうしのしとみのつらにたちより/d40l
たまひけるもしらてあめのもり けれはむしろをひきかへすとて おもふひとあめとふりくるもの ならはわかもるとこはかへささらまし となむうちいひけれはあはれときき てふとはひいりたまひにけり/d41r