師走の十五日(もち)ごろ、月いと明かきに、物語しけるを人見て、「誰(たれ)ぞ。あなすさまじ。師走の月夜ともあるか」なんど言ひければ、
春を待つ冬の限りと思ふにはかの月霜ぞあはれなりける
返し、
年を経て思ひもあかじこの月はみそかの人やあはれと思はん
かく言ふほどに、夜更けにければ、「人うたて見むもの」とて入りにけり。男は曹司(ざうし)にとみにも入らで、うそぶきありきけり。
いとけふとくなかりけりしはすの もちころ月いとあかきに物かたり しけるを人みてたれそあなす さまししはすの月夜ともあるか なんといひけれは 春をまつ冬のかきりとおもふには かの月霜そあはれなりける 返し としをへておもひもあかしこの月は/s7r
みそかの人やあはれとおもはん かくいふ程に夜ふけにけれは 人うたてみむ物とて入にけり おとこはさうしにとみにもいらて うそふきありきけりさてあし/s7l