text:takamura:s_takamura1-03
1-3 さて朝に久しう書読ませざりければ・・・
校訂本文
さて、朝(あした)に久しう書(ふみ)読ませざりければ、父ぬし、「あやしう、篁が見えぬかな」と言ひて、呼びにやるに、おどろきて、例の書かき集めて教へけるままになむ、この女のみ心に入りて、僻事(ひがごと)をのみなむしける。かう教ふる中に、角筆(かうひち)して、「かやうのものの書は、僻事つかまつるらむ。このごろはもの覚えずや。
君をのみ思ふ心は忘られず契りしこともまどふ心か」
返し、
博士とはいかが頼まむさとられずもの忘れする人の心を
また男、
読み聞きてよろづの書は忘るとも君一人をば思ひもたらん
かくて、この男はてふくみ1)をぞ常に作り返しける。
翻刻
うそふきありきけりさてあし たにひさしうふみよませさりけ れはちちぬしあやしうたかむらかみえ ぬかなといひてよひにやるにおとろ きてれいのふみかきあつめてお しへけるままになむこの女のみ/s7l
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/7
心に入てひか事をのみなむしける かうおしふる中にかうひちして かやうの物のふみはひかことつか まつるらむこのころはものおほへ すや 君をのみおもふ心はわすられす ちきりしこともまとふ心か かへし はかせとはいかかたのまむさとられす ものわすれする人のこころを/s8r
又おとこ よみききてよろつのふみはわするとも きみひとりをはおもひもたらん かくてこのおとこはてふくみをそ つねにつくり返けるさてこの女願/s8l
1)
語義不詳。
text/takamura/s_takamura1-03.txt · 最終更新: 2022/08/28 22:17 by Satoshi Nakagawa