また、その所に行きて心をなぐさむるほどに、小夜(さよ)うちへだたるほどに、常よりももの悲しくて、泣き濡らしたる袖の冷たく顔に当たれば、「桜の上着は花の色やかへりてしるからむ」と思ひわづらふほどに、ある人のここを過ぐとて、「袖にみなとの騒ぐかな、もろこし船も寄りぬばかりに1)」と、なに心なくうちながめて過ぎしかば、折から耳にとまりて、
何とかは濡るる袂(たもと)に驚かむ袖にみなとの騒ぐなる夜(よ)に
またそのところにゆきて/s23l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100002834/23?ln=ja
心をなくさむるほとにさよ うちへたたるほとにつねより もものかなしくてなきぬら したるそてのつめたく かほにあたれはさくらの うはきははなのいろやかへり てしるからむとおもひわつらふ ほとにある人のここをすく とてそてにみなとのさはく かなもろこしふねもより/s24r
ぬはかりにとなに心なくう ちなかめてすきしかは おりからみみにとまりて なにとかはぬるるたもとにおとろかむ そてにみなとのさはくなるよに/s24l