醒睡笑 巻4 いやな批判
山中に祝言(しうげん)のことあり。蛸(たこ)を買ひにつかはす。使(つかひ)、その形を問ふに、功者(こうしや)めきたる男、「蔓(つる)にいぼあり。烏賊(いか)に似たる物、悪(わる)うすれば見違ゆる」と教へけり。
堺の津に出でて、大道を尋ぬるになし。「ある横町に教へのごとくなる物あり」とて、ほんだはらをぞ買ひける。
山に帰り、かの功者に見せければ、「これは蛸ではない、烏賊ぢや」。「いや、蛸にすうだ」。「さらば、殿に御目にかけ、理をすませ」とて、見せ参らせたれば、「蛸でも烏賊でもなし。干鮭(からざけ)といふものなり。
一 山中に祝言の事ありたこを買(かひ)につかはす 使其かたちをとふに功者(こうしや)めきたる男つるに/n4-30r
いぼありいかに似たる物わるふすれば見ちかゆると をしへけり境(さかい)の津に出て大道をたづぬるに なしあるよこ町にをしへのことくなる物 ありとてほんだはらをそかひける山に帰り 彼功者に見せけれはこれは蛸(たこ)ではないいか ぢやいやたこにすふたさらは殿に御目にかけ 理をすませとて見せ参らせたれは蛸でもいか てもなしからざけといふ物也/n4-30l