昔、武蔵なる男、京なる女のもとに、「聞こゆれは恥づかし、聞こえねば苦し」と書きて、上書(うはがき)に、「武蔵鐙(むさしあぶみ)」と書きて、おこせて後、音もせずなりにければ、京より女、
武蔵鐙さすがにかけてたのむには問はぬもつらし問ふもうるさし
とあるを見てなん、堪へがたき心地しける。
問へば言ふ問はねば恨む武蔵鐙かかる折にや人は死ぬらん
昔むさしなるおとこ京なる女のもとに きこゆれははつかしきこえねはくるしと かきてうはかきにむさしあふみとかきて をこせてのちをともせすなりにけれは京 よりをんな むさしあふみさすかにかけてたのむには とはぬもつらしとふもうるさし とあるを見てなんたへかたき心地しける とへはいふとはねはうらむむさしあふみ/s25r
かかるおりにや人はしぬらん/s25l