古今著聞集 魚虫禽獣第三十
衛の懿公と申しける王は、心つたなくおはしまして、かしこき臣下などをば賞し給はで、鶴をのみ愛し給ひて、御幸(みゆき)の折は同じく輿(こし)に乗せなどし給ひけるに、夷(えびす)来たりて国を亡ぼす時、「鶴君の敵(かたき)をばしりぞくべし」と言ひて防ぐ人なかりければ、夷、懿公を殺して、みな食らひて、その肝ばかりを土の上に残して帰りにければ、懿公の臣弘演といふ人、天に恥ぢて、おのれが腹を裂きて、君の肝を入れて死にけり。鶴、その益なくや。
衛懿公と申ける王は心つたなくおはしましてか しこき臣下なとをは賞し給はて鶴をのみ 愛し給てみゆきのおりはおなしくこしにのせな とし給けるにゑひすきたりて国をほろほすと き鶴君のかたきをはしりそくへしといひてふ せく人なかりけれはゑひす懿公をころしてみな/s564r
くらひてそのきもはかりをつちのうへにのこして かへりにけれは懿公の臣弘演といふ人天にはちて をのれかはらをさきて君の肝をいれてしに けり鶴その益なくや/s564l