古今著聞集 魚虫禽獣第三十
永延元年五月九日、右近の馬場にて競馬(くらべうま)五番ありけるに、三番、左府生下野公里、穂坂の七1)葦毛に乗りたりけり。右近衛三宅忠正、同じく九鴾毛(つきげ)に乗りたりけるに、左、五尺勝ちにけり。
鴾毛、次の日の朝(あした)、病もなきに、涙をうかべて、やがて死にけり。獣なれども、負けたることを思ひ入れたりけるにや。不思議なることなり。
永延元年五月九日右近馬場にて競馬五番ありけ るに三番左府生下野公里穂坂葦毛にのりた りけり右近衛三宅忠正同九鴾毛に乗たりけるに 左五尺勝ちにけり鴾毛次日の朝病もなきに 涙をうかへてやかて死にけり獣なれとも負たる 事を思ひいれたりけるにや不思儀なる事なり/s529r