古今著聞集 興言利口第二十五
粟田口大納言(忠良)1)、古き大納言にておはしながら、いとも出仕などもせで、入りこもりておはしけるころ、公家に大納言の御用ありげに聞こえければ、「さだめてはがれ給ひなむず」と世に言ひけるに、その儀なかりければ、県召(あがためし)の除目の朝(あした)、普賢寺入道殿2)、かの卿がもとへつかはされける3)、
人よりも皮逸物(いちもち)に見ゆるかなこの生け剥ぎにせられざりつる4)
御返し
生け剥ぎにせられさらんもことわりや骨と皮とのひつきさまには
この大納言は痩せ細りたる人にておはしければ、かく返し参らせられけるとぞ。
粟田口大納言(忠良)ふるき大納言にておはしなからいとも 出仕なともせていりこもりておはしける比公家に 大納言の御用ありけに聞えけれはさためてはかれ給 なむすと世にいひけるに其儀なかりけれは県召 除目のあした普賢寺入道殿彼卿かもとへつかはされけかる 人よりも皮いちもちに見ゆるかなこのいけはきにせられつる 御返し いけはきにせられさらんもことはりやほねとかはとのひつきさまには 此大納言はやせほそりたる人にておはしけれはかくかへしまいらせ られけるとそ/s416r