古今著聞集 闘諍第二十四
鎌倉右府の将軍家1)に、正月朔日、大名ども参りたりけるに、三浦介義村2)もとより候ひて、大侍の座上に候ひけり。
その後、千葉介胤綱3)参りたりける、いまだ若者にて侍りけるに、多くの人を分け過ぎて、座上せめたる義村がなほ上にゐてけり。義村、しかるべくも思はで、憤りたる気色にて、「下総犬は臥しどを知らぬぞとよ」と言ひたりけるに、胤綱、少しも気色変はらで、とりあへず、「三浦犬は友を食らふなり」と言ひたりけり。
輪田左衛門4)が合戦の時のことを思ひて言へるなり。ゆゆしく、とりあへずは言へりける。
鎌倉右府将軍家に正月朔日大名とも参たり けるに三浦介義村もとより候て大侍の座上に 候けり其後千葉介胤綱まいりたりけるいまた若 物にて侍けるにおほくの人を分すきて座上せめ/s405l
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たる義村か猶上にゐてけり義村しかるへくもおも はていきとをりたる気色にて下総犬はふしとを しらぬそとよと云たりけるに胤綱すこしも気 色かはらてとりあへす三浦犬は友をくらふ也といひ たりけり輪田左衛門か合戦の時のことをおもひ ていへるなりゆゆしくとりあへすはいへりける/s406r