古今著聞集 宿執第二十三
山1)にうへすぎの僧都といふ人ありけり。法に執深くて、たやすく弟子などにも授けざりけり。
死にて後、住房の天井の上に、重き音なひして落ちかかるもの聞こえけり。「あら苦しや」とぞ言ひける。聞く人、怖畏をなしながら、「誰人にてかくは」と問ひたりければ、「われはそれがしながら、法慳恡(ほふけんりん)の罪によりて、手もなき鬼となれるなり」とぞ言ひける。
秘すべきことも、いたく過ぎぬるは、罪になるにこそ。よく心得べきことなり。
山にうへすきの僧都といふ人ありけり法に執ふか/s395l
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くてたやすく弟子なとにもさつけさりけり死て 後住房の天井のうへにおもき音なひして落かかる 物聞えけりあらくるしやとそいひける聞人怖畏 をなしなから誰人にてかくはととひたりけれはわれは それかしなから法慳恡の罪によりて手もなき鬼と なれる也とそいひける秘すへき事もいたくすき ぬるは罪になるにこそよく心うへき事也/s396r