古今著聞集 偸盗第十九
澄恵僧都、いまだ童にて侍りける時、介錯(かいしやく)しける僧、「髪けづらん」とて、手箱を乞ひけるに、その手箱失せにけり。いかに求むれども見えず。はや盗人の取りてけるなり。
その時、この稚児(ちご)、とりもあへず詠み侍りける。
白波の立ち来るままに玉くしげふたみの浦の見えずなりぬる
澄恵僧都いまた童にて侍ける時かいしやく しける僧かみけつらんとて手箱をこひけるに そのてはこうせにけりいかにもとむれともみえす はや盗人のとりてけるなりその時このちこと りもあへすよみ侍ける しら浪の立くるままに玉くしけふたみの浦のみえすなりぬる/s347r