古今著聞集 馬芸第十四
建保五年、新日吉(いまひえ)の小五月会(こさつきゑ)に、新院1)の番長(ばんぢやう)秦頼峰・府生同武澄2)つかうまつりけるに、頼峰追ひて勝ちにけるが、馬場末にて落ちて死たりけるを、郎等走りて、父頼武3)が御桟敷に候ひけるに、「先生殿の死なせ給ひて候ふ」と告げたりければ、頼武、「かひて捨て候へ」と言ひたりけるに、また下人走りて、「生き出でさせ給ひて候ふが、御冠のひしげて、え参らせ給はぬ」と告げたりければ、「おれらが烏帽子ぞかし」と言ひたりければ、すなはち下人が烏帽子を引き入れて、あげて参りたりける、いみじう見えけり。
建保五年新日吉の小五月会に新院番長秦頼 峯府生同武澄つかうまつりけるに頼峯追て勝に けるか馬場末にて落て死たりけるを郎等はし りて父頼武か御桟敷に候けるに先生殿の死なせ 給て候とつけたりけれは頼武かひて捨候へといひ/s270l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/270
たりけるに又下人走ていきいてさせ給て候か御 冠のひしけてえまいらせ給はぬと告たりけれは おれらか烏帽子そかしといひたりけれは則下人か 烏帽子を引入てあけてまいりたりけるいみし う見えけり/s271r