古今著聞集 好色第十一
妙音院の大臣(おとど)1)、忍びたる女を迎へさせ給ひて、尾張守孝定2)に、「夜の明けんほど、はからひて申せ」と仰せられたりけるに、やうやうよくなりにける時、
酒軍在座 (酒軍座に在り)
菟園之露未晞 (菟園の露未だ晞(かは)かず)
僕夫待庵 (僕夫庵に待ち)
鶏籠之3)山欲曙 (鶏籠の山曙(あ)けなんと欲す)
この句を朗詠にしたりけり。
孝定が所為、かくこそあらまほしきことなれば、いといみじきことなりかし。
妙音院のおとと忍たる女をむかへさせ給て尾張守孝定 に夜のあけん程はからひて申せと仰られたりけるにやうやう よく成にける時酒軍在座菟園之露未晞僕夫待 菴雞籠山欲曙この句を朗詠にしたりけり孝定か 所為かくこそあらまほしき事なれはいといみしき事 なりかし/s221r