古今著聞集 術道第九
後鳥羽院1)、御熊野詣(みくまのまうで)ありけるに、陰陽頭在継2)を召し具せられけるに、毎日の御所作に千手経3)をあそばされける、件(くだん)の御経を御経筥に入れられたりけるを、取り出だされけるに、その御経見えず。
いかに求むれども無かりければ、在継を召して占はせられけるに、いかにも失せざるよしを申して、「なほよくよく求めらるべし。あやまりて、いまだ箱の中に候ふものを」と申しけり。その後、また求められければ、御経筥の蓋、軸つまりて付きたりけるを、え見ざりけり。
叡感ありて、御衣(おんぞ)を賜はせけるとなん。
後鳥羽院御熊野詣ありけるに陰陽頭在継をめし くせられけるに毎日御所作に千手経をあそはされ ける件の御経を御経筥に入られたりけるをとりいた されけるにその御経見えすいかにもとむれともなかり けれは在継をめしてうらなはせられけるにいかにもうせ/s209l
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さるよしを申てなをよくよくもとめらるへしあやまり ていまた箱の中に候ものをと申けりその後又もと められけれは御経筥の蓋軸つまりてつきたり けるをえ見さりけり叡感ありて御衣を給はせ けるとなん/s210r