古今著聞集 管絃歌舞第七
同院1)、箏を弾かせ給ひける折、「初夜の鐘はつきぬるか」と御尋ねありけるに、聞きたる者なかりけるに、釜殿(かなへどの)が申しけるは、「御所の方にこそ鐘の声は聞こえ侍りつれ」と申しけるを、人伝へ申しければ、「わが箏はいたりにけり。良き箏は鐘の声に似たるなり」とぞ仰せられける。
いみしき御事なれ同院箏をひかせ給けるおり初夜の 鐘はつきぬるかと御尋ありけるにききたる物なかりけ るに釜殿か申けるは御所のかたにこそ鐘の声はきこえ侍 つれと申けるを人つたへ申けれは我箏はいたりにけりよき 箏は鐘の声に似たるなりとそ仰られける/s188l