古今著聞集 和歌第六
長寛のころ、六角左衛門督家通1)、中将にて侍りけるに、仰せられて2)、承香殿の梅を折らせられて、中宮の御方3)へ参らせられて、内侍に賜はせけり。「行きて見ねど、折りて見るよしを申すべし」と仰せられければ、すなはち持(も)て参りて4)、そのよし申しければ、御返し、
色も香もえならぬ梅の花なれや
家通朝臣、帰り参りて、このよしを奏しければ、やがて御返事つかまつるべきよし、仰せられければ、
匂ひは千世も変はらざらなん
長寛の比六角左衛門督家通中将にて侍けるに仰られ て承香殿の梅をおらせられて中宮の御方へまいらせられ て内侍にたまはせけりゆきてみねとおりてみるよしを申 へしと仰られけれは則もてまいり其由申けれは御返し 色も香もえならぬ梅の花なれや 家通朝臣帰りまいりて此よしを奏しけれはやかて御 返事つかまつるへきよしおおせられけれは にほひは千世もかはらさらなん/s120l