古今著聞集 和歌第六
一条院1)の御時、正暦四年五月五日、帯刀(たてはき)の陣に十番の歌合ありけるに、第十の番(つがひ)2)・恋の歌に、
会ふことの夢ばかりにもなぐさまばうつつにものは思はざらまし
思ひつつ恋ひつつは寝じ会ふと見る夢も覚めては悔しかりけり
この番を見て、誰(たれ)かしたりけん、歌を詠みて、帯刀の陣に送りけり。
さはべのもみぎはの方もあやめ草同じ心に引くと知らずや
返事、
下り立ちて引くと知りせばあやめ草ねたくみぎはも何まさるらん
一条院の御時正暦四年五月五日帯刀陣に十番の 哥合ありけるに第の番恋哥に あふことの夢はかりにもなくさまはうつつに物は思はさらまし 思つつ恋つつはねし会とみる夢もさめてはくやしかりけり このつかひをみてたれかしたりけん哥をよみて帯刀陣 にをくりけり さはへのもみきはのかたもあやめ草おなし心にひくとしらすや 返事 おりたちてひくとしりせはあやめ草ねたくみきはもなにまさるらん/s114l