古今著聞集 文学第五
不是花中偏愛菊 これ花の中に偏へに菊を愛するにあらず
此花開後更無花 この花開きて後更に花無ければなり
これは元稹が秀句なり。
隠君子、琴を弾じ給ひける空より、影のやうなる者来たりて言ひけるは、「われこの句を愛す。宿執(しゆくしふ)あるによりて、その感にたへず。ただし、『後』の字を改めて、『尽』とあるべし」と言ひて失せにけり。
不是花中偏愛菊此花開後更無花これは元稹か 秀句也隠君子琴を弾し給ける空よりかけのやうなる ものきたりていひけるは我此句をあいす宿執あるに よりて其感にたへす但後の字をあらためて尽とある へしといひてうせにけり/s91l