古今著聞集 公事第四
後鳥羽院1)、公事(くじ)の道を深く御沙汰ありけるに、菩提院入道殿下2)に「内弁の作法を習はせおはしまさん」とて、滝口殿3)に御幸なりて、門みなさしまはされけり。
入道殿下、墨染(すみぞめの)御衣・袴(はかま)に笏正しくして、院の御下重(したがさね)の尻を賜はらせ給ひて、御腰に結ひて、ももゆき履きてねらせ給ひたりける、目も心も及ばずめでたかりける。
幼き殿上人一・二人、上北面(じやうほくめん)には重輔朝臣4)一人ぞ候ひける。
後鳥羽院公事の道をふかく御沙汰ありけるに菩提院 入道殿下に内弁の作法をならはせおはしまさんとて 龍口殿に御幸なりて門みなさしまはされけり入道 殿下すみそめの御衣はかまに笏たたしくして/s86r
院の御下重尻をたまはらせ給て御輿にゆいて ももゆきはきてねらせ給たりける目も心もおよはす めてたかりけるをさなき殿上人一二人上北面には 重輔朝臣一人そ候ける/s86l