古今著聞集 釈教第二
湛空上人1)、嵯峨の二尊院にて涅槃会を行はれける時、人々五十二種の供物を供へけるに、花を上に立てて歌を詠みて付けけるに、西音法師、「水瓶に梅を立てて送る」とて詠みける、
如月の中の五日の夜半(よは)の月入りにし跡の闇ぞ悲しき
返し、湛空上人、
闇路(やみぢ)をば弥陀の光にまかせつつ春の半ばの月は入りにき
また一首添へられける、
会(ゑ)を照らす光のもとを尋ぬれば勢至菩薩の頂(いただき)の瓶(かめ)
湛空上人嵯峨の二尊院にて涅槃会をおこなはれける 時人々五十二種の供物をそなへけるに花をうへにたてて 哥を読て付けるに西音法師水瓶に梅を立て送とて読ける きさらきのなかのいつかの夜はの月入にし跡のやみそかなしき 返し 湛空上人 やみちをは弥陀の光にまかせつつ春のなかはの月は入にき 又一首そへられける/s66l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/66
会を照す光のもとを尋れは勢至菩薩のいたたきのかめ/s67r