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- 巻9第3話(113) 安養尼事
- 侍らずや。誰も、さるほどのいみじき人を、親しき方に持ちたらば、なにしにか、後世をもしそなはかすべきと思え侍れども、さらにかひなし。「さる智者・貴人を、兄にても((底本「も」なし。諸本により補う。))、弟にて
- 巻6第6話(54) 冨家殿事(春日御託宣)
- し給ふべき人なれば、われ、ともなはず」と御託宣なりて、あがらせ給へりと、伝へ承はるに、かたじけなくぞ思え侍る。 これをもて思ふに、道心ある者をば、おほきに悦ばせ給ふなり。まことに一切の衆生をば、神仏は我子... 常をも知り、火宅をのがるるなかだちどもし侍るに、さこそ嬉しくも思し召すらめ。わが身にかへていとほしく思え侍らん独り子の、火の中に馳せ入り、煙に咽(むせ)び居たらんは、誰かこれを歎かざらん。また、火の中を走り
- 巻4第5話(30) 顕基卿事
- 心集』に載せられて侍りしを、見侍りしに、そのこととなく、涙の落ちてあやしきに、発心の始めことに澄みて思え侍り。「忠臣、二君に仕へず」と云ふ、世俗の風儀を守りて、飾りをおろし、大原の奥に居をしめて行ひ給ひける、いとありがたくぞ侍る。 所がら、ことに澄みて思え侍る。長山、四方(よも)にめぐりて、わづかに爪木こる斧の音の山彦ひびき、峰の呼子鳥(よぶこどり)のひめ... 正。))の恵遠寺などの、しづかなるさまを聞くに、「かしこに住む身と、などかならざりけん」とくちをしく思え侍り。大原・小野里・吉野の奥の住居(すまゐ)こそ、あらまほしく思えて侍れ。「罪無くして配所の月を見ばや... る。大原の奥の糸すすき、露のよすがの秋来れば、さもこそ玉の緒をよはみ、末葉にすがり、かたぶくらめと、思え侍り。 ===== 翻刻 ===== 昔中納言顕基と申人いまそかりける後 冷泉院の御時朝に
- 巻9第8話(118) 江口遊女事
- このこと聞くに、あはれにありがたく思へて、墨染の袖、しぼりかねて侍りき。夜明け侍りしかば、名残りは思え侍れど、再会を契りて別れ侍りぬ。 さて、帰る道すがら、貴く思えて、いくたびか涙を落しけん、今さら心を
- 巻9第2話(112) 貞基事
- の私なき心を、三世(みよ)の仏たちの、あはれと見そなはして、母の心をやはらげ給へりけるやらん」とぞ、思え侍る。 上人、つひに唐土(もろこし)に渡り給ひて、法のしるしども、数多く施し給へりければ、御門、叡慮
- 巻9第11話(121) 覚英僧都事
- 承はり侍りき。はや、諸国流浪していまそかりけるが、この所にて終り給ひけるにこそ。かへすがへすあはれに思え侍り。 一寺に管主として、三千の禅徒にいつかれ給ふべき人の、名利の思ひを振り捨て、人には葛の松原と呼... 、「またはけがさじ」の玄賓僧都のいにしへは、聞くも心の澄むぞかしな。この覚英の君は、なほたけありてぞ思え侍る。 世を捨つとならば、かくこそあらまほしく侍れ。あはれ、かなしかりける心かな。かりそめの名利につ
- 巻9第7話(117) 空観房事
- 善 を修しても、ことごとく自他の法界に廻向するに侍り」と、のたまはせしに、伝へ聞き侍りしよりも、貴く思え侍りて、随喜の涙、袂をうるほし侍りき。 さて、帰る道すがら、このことを思ふに、上人のたまはせしこと、
- 巻9第6話(116) 道希法師事
- がれて渡天し給ひしかば、「さりとも」とこそ思ひ侍りしに、さははかなくなり給ひけん悲さ、たとへん方なく思え侍り。 諸経論を翻訳して、唐土(もろこし)に((底本「に」なし。諸本により補う。))返り給はざるは、... も、婆羅提寺の荒れ果てて、人もなき閑室をしめて、静かに経論を見そなはかし奉られけんこと、ことに貴くぞ思え侍る。 あはれ、生死の無常が、かやうの人には所をおきて、つたなきわれらごときの者に替へでも、口惜しく
- 巻9第4話(114) 観理大徳事
- 字み」。諸本「孚」により訂正。))、いとなみ給ふも、悲しく侍り。また、かくても行く末いかなるべしとも思え侍らねば、早く、われに暇(いとま)を許し給へね。水の底にも入るか、また、ものをも乞ひても、遠き方にまかりなん」とかきくどき言ふに、母、いとど悲しく思えて、「故殿におくれて、片時、『生きてあるべし』とも思え侍らざりしかど、われに心をなぐさめてこそ過ぐすことにてあれ。世の中のあるにもあらず、貧しきわざは、まこ... みしき人の多く侍りし中に、観理大徳と聞こえ給ひぬれば、智恵もかしこく、道心もさこそ深くおはしけめと、思え侍り。 さても、孝養の心の、ことにいまそかりけるこそ、おろかなる心にもいみじく思えて侍れ。情を知れら
- 巻9第1話(111) 内侍所御事(并鹿島御事)
- り給へり。 末の世には、「請け取り参らせん」と思ひ寄る人も侍らじかし。神鏡も、また入らせ給はじとぞ思え侍る。神は昔の神にて、変ることいましまざれども、凡夫の闇の深くのみなりゆきて、澄める月の現はれざると知
- 巻8第35話(110) ※標題無し
- て、利益の名を広く天(あめ)の下にほどこしき。人々、信をひき、多くの縁を結ばせ給ひけん、ありがたくぞ思え侍る。 さても、「この奉成は、いづれの所にか生じて、観音の御あはれみを深く蒙らん」と、かへすがへすも
- 巻8第34話(109) ※標題無し
- はれ、かざしの梅の袂にかかるに、「『二月の雪、衣に落つ』と作りけん、これならん」と思えて、おもしろく思え侍り。 ===== 翻刻 ===== 昔恵心の僧都と云人いまそかりけり智恵さ きらならひな
- 巻8第33話(108) 鳥羽院事(琵琶)
- には賀茂明神の生れかはらせ給へり。八条の二位殿、あらたなる玉を給へりし上に、こま人の言葉、化人とこそ思え侍しかば、まことの明神にて、琵琶をも弾かせおはしますにや。 ===== 翻刻 ===== らは
- 巻8第29話(104) ※前話のつづき
- 這ひ出でて、すなはち死にけり。いと不思議にぞ侍る。 上古もかかることを聞かず、末代にもあるべしとも思え侍らぬことに侍り。雅忠・晴明・行尊、時の面目、ゆゆしくぞ侍りける。今、世の下りて、かかるめでたき人々も
- 巻8第28話(103) 行尊(歌)
- すらんに、手跡はひとり卒都婆の面に残りけるこそ思ひ入れ侍るに、あはれにかなしく、涙もところせくまでに思え侍れ。 遺弟にていまそかりし、桜井僧正行慶、かの岩屋にこもり給へりし時、師の僧正の歌の見えけるに、今... 、 げに漏らぬにぞ袖も濡れける とありしを見しに、「さも、ゆかしかりける人のありさまかな」と思え侍り。 かかるゆゆしき人の歌の傍らに、つたなき身にして、言葉も姿もたらはぬ((「たらはぬ」は底本「た