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世継物語
第35話 四条大納言出家し給ひぬと聞かせ給ひて御堂より・・・
校訂本文
今は昔、四条大納言、出家し給ひぬと聞かせ給ひて、御堂より、御装束(さうぞく)つかはすとて、
いにしへは思ひかけきや取りかはしかく着ん物と法(のり)の衣を
御返り。長谷(ながたに)より、
何事も契りかはらで着替へきを君が衣にたちをくれける
定頼公、里(さと)より聞え給ひけり。
古郷の板間の風に夢覚て谷の嵐を思ひこそやれ
三井寺より、権中将の君、
まだ慣れぬみ山隠れに住みそむる谷の嵐はいかに吹くらん
御返し
谷風に慣れずといかに思ふらし心ははやく住みにしものを
まことや。弁の君の御返り、
山里の谷の嵐の寒きには木の本をこそ思ひやりつれ
翻刻
いまは昔四条大納言出家し給ぬときかせ給て御たう より御さうそくつかはすとて いにしへは思ひかけきや取かはしかくきん物とのりの衣を/19オ
御かへりなかたにより 何事も契りかはらてきかへきを君か衣にたちをくれける 定頼公さとより聞えたまひけり 古郷の板間の風に夢覚て谷の嵐を思ひこそやれ 三井寺より権中将の君 またなれぬみ山かくれに住そむる谷の嵐はいかに吹らん 御返し 谷風になれすといかに思ふらし心ははやく住にし物を まことや弁の君の御かへり 山里の谷の嵐の寒きには木の本をこそ思ひやりつれ/19ウ
text/yotsugi/yotsugi035.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:34 by Satoshi Nakagawa