text:yotsugi:yotsugi018
世継物語
第18話 村上の先帝の御時雪のいと高う降たりけるを・・・
校訂本文
今は昔、村上の先帝の御時、雪のいと高う降たりけるを、様器(やうき)に盛らせ給ひて、梅の花をかざさせ給ひて、月のいと明かきに、「これに歌詠め。いかがは言ふべき」と兵衛の蔵人に給はせ給ひければ、「雪月花1)」と奏したりければ、いみじうめでさせ給ひけり。
「歌などよむは世の常なり。折にあひたる事、言ひがたけれ」とぞ仰せられ、同人、殿上人の候(さぶ)らはざりけるほど、炭櫃(すびつ)に煙たちければ、「何とぞ。見てこ」と仰せられければ、
わたつ海のおきにこがるる物見ればあまの釣して帰るなりけり
この兵衛の尉、誰そとよ、名をしらず。
翻刻
今は昔村上の先帝の御時雪のいとたかう降たりける をやうきにもらせ給て梅の花をかささせ給ひて月の いとあかきに是に歌よめいかがはいふべきと兵衛の蔵 人に給はせ給ひければ雪の花と奏たりければいみし うめでさせ給ひけり歌などよむは世のつね也折に あひたる事いひかたけれとそおほせられ同人殿上人の さふらはさりけるほとすひつに煙たちけれは何とそ 見てことおほせられけれは/12オ
わたつ海の興にこがるる物みればあまの釣して帰る也けり 此兵衛のせうたそとよ名をしらす/12ウ
1)
底本「雪の花」だが、「の」は「月」の誤写とみて、『枕草子』によって改める。
text/yotsugi/yotsugi018.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:20 by Satoshi Nakagawa