ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yotsugi:yotsugi011

世継物語

第11話 亭子院に御息所達あまた御曹司しして住み給ふに・・・

校訂本文

今は昔、亭子院に御息所達、あまた御曹司(みざう)しして住み給ふに、年ごろ有りて、面白く作らせ給ひて、京極の御息所の方をのみして具して、渡らせ給ひにけり。春の事なりけり。異(こと)御息所たち、いと思ひのほかに口惜しく、さうざうしく思しけり。

殿上人を呼び給ひて、藤花のいと面白きを、「これが盛りをだに御覧ぜよ」など言ひて歩くに、文をなん給ひ付けたりけるを、開けて見れば、

  世中の浅き瀬にしもなり行かば昨日の藤の花とこそ見れ

とありければ、人々見て、あはれがりめでけれども、誰(た)が御しわざといふ事も知らざりけり。

これは、御門出家して、いみじう行はせ給ひければ、天狗の憑きまいらせて、京極の御息所に落し参らせたりけるとぞ。

翻刻

今は昔亭子院に宮司所達あまた御さうしして住/9ウ
給に年比有て面白作らせ給て京極の宮す所のかた
をのみしてくしてわたらせ給ひにけり春の事也けりこと
宮す所たちいと思ひのほかに口惜しくさうさうしく覚し
けり殿上人をよひ給て藤花のいと面白を是か盛をた
に御覧せよなといひてありくに文をなん給ひ付たり
けるをあけて見れは
  世中のあさきせにしも成行は昨日の藤の花とこそ見れ
とありけれは人々見て哀かりめてけれともたか御しわさと
いふ事もしらさりけり是は御門出家していみしうおこ
なはせ給ひけれはてんくのつきまいらせて京極の宮す/10オ
所におとしまいらせたりけるとそ/10ウ
text/yotsugi/yotsugi011.txt · 最終更新: 2014/09/25 02:17 by Satoshi Nakagawa