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text:yomeiuji:uji143 [2014/04/17 16:04] – 作成 Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji143 [2025/05/24 11:47] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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-====== 第142話(巻12・第6話)増賀上人、三条宮に参り振舞の事 ======+宇治拾遺物語 
 +====== 第143話(巻12・第7話)増賀上人、三条宮に参り振舞の事 ======
  
 **増賀上人参三条宮振舞事** **増賀上人参三条宮振舞事**
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 **増賀上人、三条宮に参り振舞の事** **増賀上人、三条宮に参り振舞の事**
  
-むかし多武峯に増賀上人とて、貴き聖おはしけり。きはめて心武うきびしくおはしけり。ひとへに名利をいとひて、頗物くるはしくなん、わざと振舞給けり。+===== 校訂本文 =====
  
-三条大きさいの宮、尼にならせ給はんとて、戒師のためにしにつかはされければ、「尤たうとき事也。増賀こそは、誠になしたてまるらめ」とて参けり。弟子共、「此御使を嗔て打たまひなんどやせんずらん」とおもふに、思の外に心安く参給へば、ありがたき事に思あへり。+[[uji142|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji144|NEXT>>]]
  
-かく宮に参たるよれば、悦てし入て、尼にな、上達部、僧共、おほくまり集り内裏より御使などまいりたに、此上人、目はおそろるが、体も貴げながら、わづらはしげになんおはし+昔、多武峯に増賀上人((底本「僧賀上人」。以下全同じ。))とて、貴き聖おはしけり。きはめて心武(たけ)うきびしくおはしけ。ひとへ名利を厭(と)ひてすこぶ物狂はし、わざと振舞ひ給ひ
  
-さて、御前に召御几帳のもとに参て出家の作法して、めでたく長きをかき出し、此上人にはさませらる。御簾中に、女房達見て泣事限なし+三条大后(おほきい)の宮((円融天皇女御藤原詮子。[[:text:k_konjaku:k_konjaku19-18|『今昔物語集』19-18]]では藤原遵子。))、尼にならせ給はんとて、戒師のために召しにつかはさければも貴きことなり。増賀こそはまことにな奉らめ」と参りけり。弟子ども「この使嗔(い)り打ち給ひなんどやんずん」と思ふに、思ひのほかに心安く参り給へば、ありがたきことに思ひあへり
  
-はさみはて出なんとする時に上人高声いふやう「僧賀をもあながちにめすは何事ぞ。心えら候はず。もしきたなき物を大なりときこしめしたるか。人のよりは大候へども、今は練きぬのやうにたくたと成たる物を」と云に、内近く候女房たち、外には公卿、殿上人、僧たち、これを聞に、あさま目口はだかりておぼゆ。宮の御心ちさらなり。さもみうせてをのをの身より汗あへて、我もあらぬ心ちす+かくて、参りたるよし申しければ悦びて召尼になり給ふ、上達部・僧ども、参り集まり、内裏より御使など参りたるに、の上人目は恐げなるがも貴がらわづらはしげなんおはしける
  
-さて、上人、「まかり出なん」とて、袖かきはせて「年罷よりて、風をもて、今はただ痢病のみれば、まいるまじく候つるを、わざとし候つれば、相構て候つる。がたくなりて候へば、いそぎまかりで候なり」とて、出ざまに、西台の簀子についゐて尻をかかげて、楾の口より水をだすやうに、ひりらす。音高く臰((の異体字))事限なし。御前までこゆ。わかき殿上人、笑ののしるおびたし。僧たちは、「かかる物狂をしたる」と謗申けり。+さて、御前に召し入れて、御几帳のもとに参りて、出家の作法して、めでたく長き御髪をかき出だして、この上人にはさませらる。御簾の中(うち)に、女房たち見て泣くことかぎりなし。 
 + 
 +はさみ果てて、出でなんとする時、上人、高声(かうしやう)に言ふやう、「増賀をしも、あながちに召すは何事ぞ。心得られ候はず。もし、汚なき物を大なりと聞こし召したるか。人のよりは大きに候へども、今は練絹(ねりぎぬ)のやうにくたくたとなりたるものを」と言ふに、御簾の内近く候ふ女房たち、外には公卿・殿上人・僧たち、これを聞くに、あさましく、目口はだかりて思ゆ。宮の御心地もさらなり。貴さもみな失せて、おのおの身より汗あへて、われにもあらぬ心地す。 
 + 
 +さて、上人、「まかり出なん」とて、袖かきはせて「年まかり寄りて、風なりて、今はただ痢病(りびやう)のみつかまつれば、るまじく候つるを、わざとし候つれば、あひかまへて候つる。耐へがたくなりて候へば、ぎまかりで候なり」とて、出ざまに、西台の簀子(すのこ)についゐて尻をかかげて、楾(はんざふ)の口より水をだすやうに、ひりらす。音高くきことかぎりなし。御前までこゆ。き殿上人、笑ののしることおびたし。僧たちは、「かかる物狂したること」と(そし)りけり。 
 + 
 +かやうにことにふれて、物狂ひにわざと振舞ひけれども、それにつけても、貴き覚えは、いよいよまさりけり。 
 + 
 +[[uji142|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji144|NEXT>>]] 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  むかし多武峯に僧賀上人とて貴き聖おはしけりきはめて心 
 +  武うきひしくおはしけりひとへに名利をいとひて頗物くるはしく 
 +  なんわさと振舞給けり三条大きさいの宮尼にならせ給はんとて戒 
 +  師のためにめしにつかはされけれは尤たうとき事也僧賀こそは誠 
 +  になしたてまつらめとて参けり弟子共此御使を嗔て打たまひ 
 +  なんとやせんすらんとおもふに思の外に心安く参給へはありかたき事 
 +  に思あへりかくて宮に参たるよし申けれは悦てめし入て尼に 
 +  なり給に上達部僧共おほくまいり集り内裏より御使なとまいり 
 +  たるに此上人は目はおそろしけなるか体も貴けなからわつらはしけに 
 +  なんおはしけるさて御前に召いれて御几帳のもとに参て出家の作法/下55オy363 
 + 
 +  してめてたく長き御髪をかき出して此上人にはさませらる御簾中 
 +  に女房達見て泣事限なしはさみはてて出なんとする時上人 
 +  高声にいふやう僧賀をしもあなかちにめすは何事そ心えられ候 
 +  はすもしきたなき物を大なりときこしめしたるか人のよりは大に 
 +  候へとも今は練きぬのやうにくたくたと成たる物をと云に御簾の内近く 
 +  候女房たち外には公卿殿上人僧たちこれを聞にあさましく目口 
 +  はたかりておほゆ宮の御心ちもさらなり貴さもみなうせてをのをの身 
 +  より汗あへて我にもあらぬ心ちすさて上人まかり出なんとて袖かき 
 +  あはせて年罷よりて風をもく成て今はたた痢病のみ仕れはま 
 +  いるましく候つるをわさとめし候つれは相構て候つる堪かたくなりて 
 +  候へはいそきまかりいて候なりとて出さまに西台の簀子についゐて 
 +  尻をかかけて楾の口より水をいたすやうにひりちらす音高く臰 
 +  事限なし御前まてきこゆわかき殿上人笑ののしる事おひたたし/下55ウy364 
 + 
 +  僧たちはかかる物狂をめしたる事と謗申けりか様に事にふれて 
 +  物狂に態とふるまひけれともそれにつけても貴き覚は弥まさりけり/下56オy365
  
-か様に事にふれて、物狂に態とふるまひけれども、それにつけても貴き覚は弥まさりけり。 
text/yomeiuji/uji143.1397718290.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa