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text:yomeiuji:uji131

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text:yomeiuji:uji131 [2014/10/11 01:44] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji131 [2025/05/22 10:25] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 宇治拾遺物語 宇治拾遺物語
-====== 第131話(巻11・第7話)清水寺御帳給る女の事 ======+====== 第131話(巻11・第7話)清水寺御帳給る女の事 ======
  
 **清水寺御帳給ル女事** **清水寺御帳給ル女事**
  
-**清水寺御帳給る女の事**+**清水寺御帳給る女の事**
  
-今は昔、たよりなかりける女の、清水寺にあながちにまいるありけり。年月つもりけれども、露ばかりそのしるしとおぼえたる事なく、いとどたよりなく成まさりて、はてはとし比ありける所をも、その事となくあくがれて、よりつく所もなかりけるままに、なくなく観音を恨申て、「いかなる先世のむくひなりとも、ただすこしのたより給候はん」といりもみ申て、御前にうつぶしふしたりける。+===== 校訂本文 =====
  
-夜の夢に、御前よりとて、「かくあながちに申せば、いとおしくおぼしめせど、すこしにてもあるべきたよりのなければ、その事をおぼしめしなげく也。これを給れ」とて、御帳のかたびらを、いとよくたたみて前にうちをかる、とみて、夢さめて、御あかしの光にみれば、夢のごとく御帳のかたびら、たたまれてまへにあるをみるに、「さは、これよりほかにたぶべき物のなきにこそあんなれ」とおもふに、身の程の思しられて、かなしくて申やう、「これ、さらに給はらじ。すこしのたよりも候はば、にしきをも御ちやうにはぬいてまいらせんとこそ思候に、此御帳斗を給はりて、まかり出べきやう候はず。返しまいらせさぶらひなん」と申て、犬ふせぎの内にさし入てをきぬ。+[[uji130|<<PREV]] [[index.html|宇治拾遺物語TOP]] [[uji132|NEXT>>]]
  
-まどろみ入たなど、かしくはあるぞ。ただ、たばん物ば給はらで、かくらす。あやしき事也」給はとみる。ささめたるに、やう前にあれば、くなくしまらせ+今は昔頼りなかりけ女の、清水((清水寺))がちに参るありけり。年月積りけれつゆばり、その験(るし)と覚えたることな、いとど頼りなくなりまさりて、ては年ごろりけそのこととなくあくがれて、寄り付く所もなりけるままに、泣泣く観音を恨み申て、「かな先世の報ひなりただ少しの頼り給はり候はん」いりも申し、御前にうつぶし臥しりけ夜の夢に、「御前より」とて「かくあがちに申せば、いとほしく思し召せど、少しにてもあるべき頼りのなければ、そのことを思し召し歎くなり。これを給はれ」とて、御帳(みちやう)の帷(かたびら)をいとよく畳みて、前にうち置かると見て、夢覚めて、御灯明(かし)の光に見れば、夢のごと、御帳の帷、畳まれて前にあるを見るに、「さは、これよりほかに、賜ぶべき物のきにこそあんなれ」と思ふに、身のほどの思ひ知られて、悲して申すやう、「これ、さらに給はらじ。『すこの頼りも候はば、錦をも御帳には縫ひて参らせん』とこそ思ひ候ふに、この御帳ばかりを給はりて、かり出づべきやう候はず。返し参らせ候ひなん」と申して、犬防木(いぬふせぎ)の内に、さし入れて置きぬ
  
-か様にしつつび返し奉るに、猶また返したびて、はてのびは此たび返したてまつらむらいなるべきよし、いましめれければかるともしらざらん寺僧は、『御帳のかたひらをぬみたやうんずらん」おもふもくしければ、まだ夜ふかくふところ入てまかりいでにけり+またまどろみ入りたるに、「などさかしくあるぞ。ん物ば給は、かく返らする。あやしきこなり」とて、ま。さて覚めたるに、ま同じやうに前あれば泣く泣く返し参らせつ
  
-「これをいかにとすべきらん」と思て、ひきひろげてみて、るべき衣もなきに、「は、これきぬにしてきん」とふ心つきぬ。これを衣にてきてのち、みとみる、男にもあれ、女にもあれあはれにいおしき物思われて、そぞろなる人の手よ、物をおほくえてけり。+やうしつつ、三度(みたび)返し奉るに、ほまた返し賜びて、のたびは「このたび返し奉らば無礼(むらい)なるべきよし」を戒められければ、「かかるとも知らざらん寺僧は、『御帳の帷盗みたる』とや疑はんずらん」と思ふまだ夜深く懐(ふころ)れて、まか出でにけり。
  
-大事なる人のうれへをもそのきぬをきてしらぬやんとなき所にもまいりて申させければ、かならなりけりかやうにしつつ人の手より物をえよき男にも思はれてたのしくてありける+「これをいかにとすべきならん」と思ひて、引き広げて見て、着るべき衣もなきに、「さは、これを衣(きぬ)にして着ん」と思ふ心付きぬ。これを衣にして着て後、見と見る、男にもあれ、女にもあれ、あはれにいとほしき者に思がれて、そぞろなる人の手より、物を多く得てけり。大事なる人の愁へをも、その衣を着て、知らぬやんごとなき所にも参りて申させければ、必ずなりけり。かやにしつつ、人の手より物を得、良き男にも思はて、楽しくてぞありける。 
 + 
 +されば、その衣をば納めて、かならず先途(せんど)と思ふことの折にこそ、取り出でて着ける、必ずかなひけり。 
 + 
 +[[uji130|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji132|NEXT>>]] 
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 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔たよりなかりける女の清水寺にあなかちにまいるありけり 
 +  年月つもりけれとも露はかりそのしるしとおほえたる事 
 +  なくいととたよりなく成まさりてはてはとし比ありける所をもそ 
 +  の事となくあくかれてよりつく所もなかりけるままになくなく 
 +  観音を恨申ていかなる先世のむくひなりともたたすこしのた 
 +  より給候はんといりもみ申て御前にうつふしふしたりける夜の 
 +  夢に御前よりとてかくあなかちに申せはいとおしくおほしめせと 
 +  すこしにてもあるきたよりのなけれはその事おほしめし 
 +  なけく也これを給れとて御帳のかたひらをいとよくたた 
 +  みて前にうちをかるとみて夢さめて御あかしの光にみれは 
 +  夢のことく御帳のかたひらたたまれてまへにあるをみるにさは/下43オy339 
 + 
 +  これよりほかにたふへき物のなきにこそあんなれとおふに 
 +  身の程の思しられてかなしくて申やうこれさらに給はら 
 +  しすこしのたよりも候ははにしきをも御ちやうにはぬいて 
 +  まいらせんとこ思候に此御帳斗を給はりてまかり出へきやう 
 +  候はす返しまいらせさふらひなんと申て犬ふせき内にさし 
 +  入てをきぬ又まとろみ入たる夢になとさかしくはあるそたた 
 +  たはん物は給はらてかく返しまいらするあやし事也 
 +  と又給はるとみるさてさめたるに又おなやうに前にあれ 
 +  はなくなく返しまいせつか様にしつつ三たひ返し奉るに 
 +  猶また返したひてはてのたひは此たひ返したてまつらはむら 
 +  いなるへきよしをいましめられけれはかかるともしらさらん寺 
 +  僧は御帳のかたひらをすみたるとうたかはすらんとおもふも 
 +  くるしけれはまた夜ふかくふところに入てまかりいてにけりこれをいか/下43ウy340 
 + 
 +  にとすへきならんと思てひきひろけてみてきるへき衣も 
 +  なきにさはこれをきぬにしてきんとおもふ心つきぬこれを 
 +  衣にしてきてのちみとみる男にもあれ女にもあれあはれに 
 +  いとおしき物に思われてそそろなる人の手より物をおほくえて 
 +  けり大事なる人のうれへをもそのきぬをきてしらぬやんこ 
 +  なき所にもまいりて申させけれかならなりけりかやうに 
 +  しつつ人の手より物をえよき男にも思はれてたのしくて 
 +  そありけるされはその衣をはおさめてかならすせんととおもふ事 
 +  のおりにこそとりいててきけるかならすかなひけり/下44オy341
  
-されば、その衣をばおさめて、かならずせんどとおもふ事のおりにこそ、とりいでてきける。かならずかなひけり。 
text/yomeiuji/uji131.1412959447.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa