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text:yomeiuji:uji092

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text:yomeiuji:uji092 [2014/10/06 22:16] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji092 [2025/05/10 22:14] (現在) Satoshi Nakagawa
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 **五色の鹿の事** **五色の鹿の事**
  
-これもいまはむかし、天竺に、身の色は五色にて、角の色は白き鹿、一ありけり。深き山にのみ住て、人にしられず。その山のほとりに大なる川あり。その山に、又、鳥あり。此かせぎを友として過す。+===== 校訂本文 =====
  
-ある時、この川に男一人ながれて、既死んとす。「我を人たすけよ」とさけぶに、此かせぎ、このさけぶ声をききて、かなしみにたへずして、川をおよぎよりて此男をたすけてけり。男、命のいきぬる事を悦て、手をすりて、鹿にむかひていはく、「何事をもちてか、この恩をむくひたてまつるべき」といふ。かせぎのいはく、「何事をもちてか、恩をばむくはん。ただ、この山に我ありといふ事をゆめゆめ人にかたるべからず。我身の色、五色なり。人しりなば、彼をとらんとて必殺されなん。この事をおそるるによりて、かかる深山にかくれて、あへて人にしられず。然を、汝がさけぶこゑをかなしみて、身の行ゑを忘て、たすけつるなり」といふ時に、男、「これ誠にことはり也。さらにもらす事あるまじ」と返返契てさりぬ。+[[uji091|<<PREV]] [[index.html|宇治拾遺物語TOP]] [[uji093|NEXT>>]]
  
-もとの里にかへりて、月日を送も、更に人にかたらず。かかる程に、后、夢にみ給やう、大なるかせぎあり。身は五色にて、角白し。夢覚て、大王に申給はく、「かかる夢をなんみつる。このかせぎ、さだめて世にるらん大王、かならず尋とりて、我あたへ給へ」と申給に、大王、宣旨をくだして、「もし五色かぎ、尋たてまつらん物には金銀珠玉の宝並、一国等をたぶべし」と仰ふれらるるに、此たすけられたる男、内裏に参て申やう、「尋らるる色のかせぎは、その深山さぶらふ。り所をしれり。狩人を給はりて取ていらすべし」と申に大王、大に悦給て、みづからおほく狩人して、此男をしるべにめして行幸なりぬ+れも天竺に、は五色にて、角の色はき鹿(かせぎ)一つりけり深き山にのみ住みて、られず。そのほとり大きなる川あり。その山に、ま烏あり。こ鹿友として過ぐす
  
-その深山に入給。此かせぎ、へてしらず。洞の内にふせり。かの友とす、これをみて大おどろきてこゑをあげてなき、耳をくひてひくに、鹿おどろきぬ。からす告て云、「国の大王、おほくの狩をぐして、此山をとりまきて、すでに殺さんとし給。いまは逃べき方なし。いかがべき」とみてなくなくさりぬかせぎ、おどろきて大王の御輿のもとに歩よるに、狩人ども、やをはげて射んとす。大王の給やう、かせぎ、おそるる事なくしてきたれり。さだめてやうあるらん。射事なかれ」と。その時狩人ども、矢をはづして見るに、御輿前にひざまづきて申さく「我毛おそるるによりて、此山にふかく隠すめり。かるに大王いかにして、我住所ばし給へるぞや」と申に大王給、「此輿のそばにある、顔にあざのある、告申たるにより来れる也」。かせぎみるに、かほにあざありて御輿にゐたり。我たすたりし男なり。+ある、この川に、男一流れて、すでにんとす。「を人助けよ」と叫ぶに、鹿叫ぶ声聞きて、耐へずして、泳ぎ寄の男を助けてけり。
  
-かせぎかれに向ていふやう、「助たりし時恩、何にても報じつくしがきよし、いひしかば、こるよし、人にかたからざるよし返返契し処也然に今其恩て殺させ奉らとすいかおぼれてなんとせ我命顧ず、をよぎよりて助時、汝かぎりなく悦し事は、おぼえずや」とく恨たる気色にて、てなく+命の生きぬることを悦びて、手をすりて、鹿に向ていはく、「何ごともちてかこのを報ひ奉るべき」と言ふ。鹿のいはくごとをちてか、恩をばはん。、この山われりといふことをゆめゆめ人にからず。わが身の色五色なり知りなば、『皮取らん』と、必ず殺されなん。このことを恐るるよりてかかる深山れて、あへて人に知られず。しかるを、なんぢが叫ぶ声を悲みて身の行方(ゆくへ)忘れけつるなり」と言ふ男、「これ、まことにことわりなり。さらにもらすことあるまじ」とへすがへす契りてさりぬ。もとの里帰りて、月日ども、さらに人に語らず
  
-其時大王同じく泪をしてのたまはく、「汝は畜生なれども慈悲をもて人をたすく。彼男は、にふけりて、忘たり。畜生といふべし。恩をしる人倫とす」とて、此男をとて、鹿にてくびをきらせらる+かかるほどに、国の后、夢に見給ふやう、大る鹿あり、身は五色にて角白。夢覚め、大王に申し給はく、「かかる夢をん見つる。この鹿、さだめて世にあるらん。大王、必ず尋ね捕りて、わに与へ給へ」と申し給ふに大王、宣旨下して、「し、五色の鹿、尋ね奉らん者には、金・銀・珠玉の宝、ならび一国等を賜ぶべし」と仰せれらるるに、この助られたる男、内裏に参りて申すやう「尋ねらるる色の鹿は、その国の深山にさぶらふ。あり所知れり。狩人賜はり、取りて参らべし」と申すに、大王、大きに悦び給ひて、みづか多くの狩人を具して、男をし召し具し、行幸なりぬ
  
-のたまはく、「今より後、国の中にかせぎを殺なかれ。もし、宣旨をそむきて、鹿の一頭にても殺すあらば、死罪に行はるべし」とて、帰給ぬ。+その深山に入り給ふ。この鹿、あへて知らず。洞(ほら)の内に臥せり。かの友とする烏、これを見て、大きに驚きて、声(こゑ)をあげて鳴き、耳を食ひて引くに、鹿おどろきぬ。烏、告げていはく、「国の大王、多くの狩人を具して、この山を取り巻きて、すでに殺さんとし給ふ。今は逃ぐべき方(かた)なし。いかがすべき」とみて、泣く泣く去りぬ。 
 + 
 +鹿、驚きて、大王の御輿のもとに歩み寄るに、狩人ども、矢をはげて射んとす。大王のたまふやう、「鹿、恐るることなくして来たれり。さだめてやうあるらん。射ることなかれ」と。その時、狩人ども、矢をはづして見るに、御輿の前にひざまづきて申さく、「われ、毛の色を恐るるによりて、この山に深く隠すめり。しかるに、大王、いかにしてわが住み所をば知り給へるぞや」と申すに、大王のたまふ、「この輿のそばにある、顔に痣(あざ)のある男、告げ申したるによりて来れるなり」。鹿、見るに、顔に痣ありて、御輿の傍らに居たり。わが助けたりし男なり。 
 + 
 +鹿、かれに向ひて言ふやう、「命を助けたりし時、この恩、何にても報じ尽しがたきよし言ひしかば、ここにわれあるよし、人にかたるべからざるよし、かへすがへす契りしところなり。しかるに、今、その恩を忘れて、殺させ奉らんとす。いかになんぢ、水に溺れて死なんとせし時、わが命をかへりみず、泳ぎ寄りて助けし時、なんぢ、かぎりなく悦びしことは覚えずや」と、深く恨みたる気色にて、涙を垂れて泣く。 
 + 
 +その時に、大王、同じく涙を流してのたまはく、「なんぢは畜生なれども、慈悲をもて人を助く。かの男は、欲にふけりて、恩を忘れたり。畜生といふべし。恩を知るをもて、人倫とす」とて、この男を捕へて、鹿の見る前にて、首を切らせらる。 
 + 
 +またのたまはく、「今より後、国の中に鹿を殺すことなかれ。もし、この宣旨をきて、鹿の一頭にても殺すあらば、すみやかに死罪に行はるべし」とて、帰給ぬ。 
 + 
 +その後より、天下安全に、国土豊かなりけりとぞ。 
 + 
 +[[uji091|<<PREV]] [[index.html|『宇治拾遺物語』TOP]] [[uji093|NEXT>>]] 
 + 
 +===== 万治二年版本挿絵 ===== 
 + 
 +{{:text:yomeiuji:ujipic20.jpg?600|}} 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これもむかし天竺に身の色は五色にて角の色は白き鹿一 
 +  ありけり深き山にのみ住て人にしられすその山のほとりに 
 +  大なる川ありその山に又烏あり此かせきを友として過す 
 +  ある時この川に男一人なかれて既死んとす我を人たすけ 
 +  よとさけふに此かせきこのさけふ声をききてかなしみにたへ 
 +  すして川をおよきよりて此男をたすけてけり男命の 
 +  いきぬる事を悦て手をすりて鹿にむかひていはく何事を 
 +  もちてかこの恩をむくひたてまつるへきといふかせきのいはく何 
 +  事をもちてか恩をはむくはんたたこの山に我ありといふ事を 
 +  ゆめゆめ人にかたるへからす我身の色五色なり人しりなは皮をと 
 +  らんとて必殺されなんこの事をおそるるによりてかかる深山に/99ウy202 
 + 
 +  かくれてあへて人にしられす然を汝かさけふこゑをかなしみて 
 +  身の行ゑを忘てたすけつるなりといふ時に男これ誠に 
 +  ことはり也さらにもらす事あるましと返返契てさりぬもとの 
 +  里にかへりて月日を送れとも更に人にかたらすかかる程に 
 +  国の后夢にみ給やう大なるかせきあり身は五色にて角白し 
 +  夢覚て大王に申給はくかかる夢をなんみつるこのかせきさた 
 +  めて世にあるらん大王かならす尋とりて我にあたへ給へと申 
 +  給に大王宣旨を下してもし五色のかせき尋てたてまつらん物 
 +  には金銀珠玉の宝並に一国等をたふへしと仰ふれらるるに 
 +  此たすけられたる男内裏に参て申やう尋らるる色のかせき 
 +  はその国の深山にさふらふあり所をしれり狩人を給はりて取てま 
 +  いらすへしと申に大王大に悦給てみつからおほくの狩人をくして此 
 +  男をしるへにめしくして行幸なりぬその深山に入給此かせき/100オy203 
 + 
 +  あへてしらす洞の内にふせりかの友とする烏これをみて大に 
 +  おとろきてこゑをあけてなき耳をくひてひくに鹿おとろきぬ 
 +  からす告て云国の大王おほくの狩人をくして此山をとりまき 
 +  てすてに殺さんとし給いまは逃へき方なしいかかすへきとみて 
 +  なくなくさりぬかせきおとろきて大王の御輿のもとに歩よるに 
 +  狩人ともやをはけて射んとす大王の給やうかせきおそるる事 
 +  なくしてきたれりさためてやうあるらん射事なかれとその時狩人 
 +  とも矢をはつして見るに御輿の前にひさまつきて申さく 
 +  我毛の色をおそるるによりて此山にふかく隠すめりしかるに 
 +  大王いかにして我住所をはしり給へるそやと申に大王の給此輿の 
 +  そはにある顔にあさのある男告申たるによりて来れる也 
 +  かせきみるにかほにあさありて御輿傍にゐたり我たすけたりし 
 +  男なりかせきかれに向ていふやう命を助たりし時此恩何にても/100ウy204 
 + 
 +  報しつくしかたきよしいひしかはここに我あるよし人に 
 +  かたるへからさるよし返返契し処也然に今其恩を忘て 
 +  殺させ奉らんとすいかに汝水におほれて死なんとせし時我 
 +  命を顧すをよきよりて助し時汝かきりなく悦し事はおほ 
 +  えすやとふかく恨たる気色にて泪をたれてなく其時に大王 
 +  同しく泪をなかしてのたまはく汝は畜生なれとも慈悲をもて 
 +  人をたすく彼男は欲にふけりて恩を忘たり畜生といふへし 
 +  恩をしるをもて人倫とすとて此男をとらへて鹿のみる前 
 +  にてくひをきらせらる又のたまはく今より後国の中にかせきを 
 +  殺事なかれもし此宣旨をそむきて鹿の一頭にても殺す物 
 +  あらは速に死罪に行はるへしとて帰給ぬ其後より天下安 
 +  全に国土ゆたかなりけりとそ/101オy205
  
-其後より、天下安全に国土ゆたかなりけりとぞ。 
text/yomeiuji/uji092.1412601381.txt.gz · 最終更新: by Satoshi Nakagawa